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こんにちは知らない世界

7. 小さな池の辺りで

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“朝だから静か・・・なんだか落ち着く”

鳥たちの鳴き声が響き朝靄が広がる林の中を、朝食前の散歩と称して2人は歩いていた。この世界に来て初めて外出する千佳は、興味深そうに辺りを見回しながら歩いている。


“・・・のんびりする時間って久しぶり。
 変な夢見たのって、ストレス溜まってたからかな”

理由をつけて引き篭もっていても毎日、誰かしらが尋ねてくる。
そんな日々を送る千佳は、いつの間にか気持ちに余裕がなくなっていたのかもしれない。

背伸びをして深く深呼吸すれば、少し冷たい空気が肺を満たし明け方からの重たい気持ちが軽くなった感じがした。


「ちょっと、迷子にならないでよ」

「すみません。なんだか新鮮で。」

先を歩くヘイデンは足を止め、ゆっくり歩いていた千佳が追いつくのを待っている。いつの間にか遅れをとっていたらしい。千佳は、獣道に慣れない足取りで彼の元へ小走りする。


「そういえば、ここに来て初めての外出?」

「はい。」

追いついた千佳を見ながら思い出した様に嘆くヘイデンは、さっと彼女の右手をとり歩幅を千佳に合わせて再び歩き始めた。


「ヘ、ヘイデンさんっ?」

突然の事に戸惑いながら彼を見れば、「迷子防止よ」といつもの調子でニコッと笑いながら言う。それに納得したのか千佳は彼の手を握り返し、再び周りを興味深そうに辺りを見回しながら歩いている。


「もう少しで着くわ。」

「着く?」

何処に向かっているのだろうと不思議に思いながら、彼に導かれ歩いていくと少し離れた場所から水の音が聞こえてくる。


「ここよ」

「!」

そう言って、指差す先には木々に囲まれた中にひっそり佇む小さな池があった。
周りにはキラキラと輝く小さな石あり、池はあちこちで透き通った水が波紋を広げ湧き出ている。そっと顔を覗かせると、水中にいる魚や水草もはっきり見える。


「・・・キレイ」

「でしょー」

池に近づき眺めていた千佳は小さな声でそう呟いた。
ふと、足元で小石が輝いている事に気づいた千佳は、それを拾い陽の光に当てて眺めている。


「うわぁ・・・すごい!
 光に反射して万華鏡みたい」

光に反射しキラキラと輝く石に目を奪われていれば、隣にいたヘイデンも同じ様に石を陽の光に当てている。


「これ、雷石ヴロンディ クロカーラって言うの」

「ヴロンディ・・・クロカーラ・・・?」

「雷の光を溜め込むって石言われてるのよ。」

片目を瞑り石を眺めていた彼はそう言って、辺りを見渡す。
ヘイデンは、小指の爪ほどの小さな石をいくつか拾い集め、手の平に置くと石に向かって小声で何かを呟いた。

パァァァァ

ヘイデンが何か言った直後、石は一瞬強い光を放ち周囲を明るくする。
黄金色にも見える輝きに見惚れていた千佳は、何が起こっているのか分からずただ彼の手元を見つめている。
光が収まると、ヘイデンは千佳の方へ歩み寄り手にしていた石を見せた。


「はい。どーぞ」

「・・・さっきより・・・輝きが強くなってる」

差し出された石を両手で受け取ると、手の中で先ほどよりも強く輝いている。


“雑誌で見るジュエリーより輝いてそう”

黄金色に輝く石を眺めながら、そんな事を思っていればヘイデンが「これじゃぁ、持ち歩きにくいわね」と言って、ズボンのポケットから細い金属の糸を出し、石に重ねる様に置いた。
そして、覆い隠す様にそっと自分の手を重ねる。


装飾ディアコスミシィ

パァァァ

彼が呟くと同時に、先ほどとは違う優しい光が手の中で溢れ、ヘイデンはそっと重ねていた手をとった。


「これ・・・」

「チカちゃんの気が少しは晴れますよーにってね。
 あげるわ。」

ニッと笑ったヘイデンはそう言うと、もっと大きい石を探しに辺りを歩き始める。
手の中に残された物に目を向けると、レース模様のチェーンに、先程の石が埋め込まれキラキラ輝くブレスレッドがあった。


「・・・ありがとうございます」

千佳は、そのブレスレットをぎゅっと握りしめながら、背を向けて石探しをするヘイデンにお礼を言った。



「そうそう、この水が流れてる川がこの先の谷にあるの。
 チカちゃんはそこに倒れていたのよ。」

「そうだったんですかっ」

池の周辺を歩き石を拾うヘイデンについて回っていると、思い出した様に千佳を見つけた場所について話す。教会で倒れていたと思い込んでいた千佳はその話に「そこに行く事はできますか?」と尋ねた。


「んー。難しいと思うわ。
 道も険しいし、獣もしょっちゅう出るから。」

「ヘイデンさんはよく行くのに?」

「私は、雷石これを採りに行くのよ。
 あそこは、ここよりも大きな石がごろごろあるからね。」

石を見せながらそう言ったヘイデンに、千佳は少しだけ残念そうな顔を浮かべる。


「もしかして、行ってみたかった?」

「少しだけ。
 ・・・もしかしたら、何か手がかりがあるかなって。」

“あれ、私、帰りたい・・・の?”
自分で“手がかり”と言ったはずなのに、頭の中にそんな疑問が浮かぶ。


“そう言えば、帰りたいなんて考えた事なかったかも。”

頭の中にいろんな疑問が浮かんでは消える。ここに来てから一度も帰りたいと思わなかった事に気づいた千佳は、なぜか安堵感を感じていた。


“ 私、どうしたいんだろう・・・・”


「そろそろ戻りましょ」

「あ、はいっ。」

考え事をしていた千佳は慌てて声のする方へ歩き出す。朝靄はいつの間にか消え、陽の光が林の中へ差し込んでいる。
視界が開け歩きやすくなった道を2人はゆっくり歩いていた。


“そういえば、レナードどうしてるかな?”

帰り道、千佳は銀髪の少年を思い出していた。
ここに来る直前まで一緒にいた彼は、今どうしているのだろうか。
突然消えたから心配させたかもしれない。
そんな考えが、ふつふつと湧いてくる。


“もし、この世界にレナードが居るなら会えるのかな・・・”

そんな事を思った千佳は何かを決めたように踏み出す足へ力を入れた。


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