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ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

124.世よ事なかれ

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「はい、ご注文はお決まりでしょうか?」

「和風卸しハンバーグ……と、特製海鮮丼と、きつねうどんお揚げ特盛、で」

 僕が全員の代弁で注文を伝える。2人の表情を伺いながら。
 物言いがない。全員要望通りの注文で、変更もなさそうだ。

 ウェイトレスが伝票に崩し文字で「和ハン、特海鮮、きつねうどん揚げ特」と素早くボールペンで書き込む。

「承りました。和風卸しハンバーグ、特製海鮮丼、きつねうどんお揚げ特盛、ですね。それぞれ、1点ずつでよろしいでしょうか?」

「はい」

「本日、レディースデーにつきドリンクバー半額となりますが、こちらご注文されますか?」

「いえ……」

 結城と三郎が遮って即答する。

「する」

「さーやも」

 何の迷いもなく注文した!?
 男が、レディースサービスを。
 ウェイトレスは特に怪しんだ様子もない。ドリンクバー半額と伝票に追記した。

「かしこまりました、少々お待ちください」

 彼女は注文を取り終わり、また速足で去っていく。

 結城は窓の外の人通りを、三郎はまたメニュー表を眺めていた。
 涼しい顔をしている。今さっきの自分の行いに微塵も罪悪感がない。当然であると。眉一つ動かさない。

 結城は以前にも自身の容姿を利用したことが何度かある。洋服店や映画館の割引など。
 本人はバレなければ良いと言っていた。バレたこともない。
 三郎も同じ意向らしい。

 女性そのものの外見は彼らの努力の賜物かもしれないが、紛れもなく悪用である。
 仮に僕が女装して同じことをすれば、警察を呼ばれるか店の外に摘まみだされる。

 ズルいなぁとは思うが、犯罪とするにはあまりにみみっちい。
 誰も傷つかなければ座視(ざし)たところで心も痛まない。注意して波風立たせたくない。

 きっと世の中の他の誰かだってやっている。黙っていればなかったも同然な軽々犯罪。忘れよう。
 罪が全て暴かれれば良いというものでもない。
 僕だって赤信号を渡ったり立ちションしたこともある。
 彼らを責めるべき立場にない。

 客がまた増えてきていた。
 店員が座席案内に注文取りにバッシング(食器片づけ)に忙殺されている。
 まだ料理が届くのに時間がかかりそうだ。

 手持無沙汰にテーブルに貼り付けられたサイドメニュー表を眺めていると、三郎が、

「ねぇ、あーくん。今、さーや何ポイントくらい?」

「ポイント? ポイントって……なんのこと?」

 レストランの利用カードに付与されるポイントのことか?
 この店のポイントカードは持っているが、別に割引もされない。
 景品と得点交換されるポイント到達も随分先だ。だいたい10回程度の利用で企業ロゴ入りの食器が貰える。

「やだなぁ、さーやの恋人ポイントだよ。こいつより、どれくらいリードしてるかなぁって」

 結城がジロリと横目で三郎を睨みつける。
 恋人ポイントという言葉に反応したのか、こいつ呼ばわりのせいか、あるいは両方か。
 会話に加わる気はなさそうだが、注意は逸らさない。

 恋人ポイント……。
 それはつまり、今日のデートで僕が結城と三郎にどれくらい好印象を抱いたか。それを数字で得点付けするという話か。
 元はデートを通して相応しい相手を決めるという趣旨だった。
 より点数の多い方をパートナーとして迎える、と。

 なるほど、理に叶っている。
 曖昧な心象による決定ではなく、具体的な行動を数値化して比較する。
 人の気持ちは揺らぎ、うつろいやすいものである。その場の環境や体調で容易に変動してしまう。
 それまでの好意の蓄積を、一時の情動で忘れてしまうこともあるかもしれない。
 漠然と「こっちがいいな」と判断するのではない。形として指針にする。
 実に統計学だ。

 ……そんなこと、する訳がないだろう。
 ポイント付けなんてまったくしていない。
 あまりに恥ずかしく浅ましいやり方だ。
 人の愛情を数学で計算するなんて、いったい何様だ。
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