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ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

117.かかってこい!貧弱なチキン野郎!

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 だが、

「僕、これ好きだっけ?」

 昔、一度プレイしたことがあるくらいだ。
 しかもその時、手首を変な捻り方をしたせいで痛めた。
 それ以降、好き好んでやってはいない。

「好きじゃないの。好きだったじゃん。毎回ゲーセン来たら、「これをやらないと始まらないぜ」って言ってた」

 結城が笑顔を近づけて威圧してくる。
 強い重圧で喉に言葉が詰まる。
 「始まらないぜ」なんて、どんなにテンションが上がっても言わないのに。

「あーくん、これ好きなの?」

「えっと……どうだろう……嫌いじゃないけど……」

 好きでもない。
 そもそもこれは電子ゲームと同じベクトルで遊ぶには、あまりに体育会系に過ぎる。
 レスラーと腕相撲したり、パンチングマシンの当て物を殴りつけたりするより、僕はレバーをガチャガチャした方が愉快だ。

 結城がすかさず間に割り込んでくる。
 三郎へ畳み掛ける。

「あーちゃんはこれ大好きだよ! いっつも、こればっかり! もう首ったけ! ゲーセン来たら「これやろう! これやろう!」ってひっきりなし! 10回も20回も続けてこれ! これ以外はアウトオブ眼中! 他のどのゲームより好きなんじゃないかなぁ!」

「……へぇ、そうなんだ」

 マシンガントークで、いかに僕が腕相撲マシンを愛用しているか語る結城。
 9割が嘘。嫌いではないがそこまで執着していない。
 にも関わらず、まことしなやかに次々と口を付いて出てくる。どこか得意げに。
 まるで押し売りのセールストークだ。

「ボクにもこればっかり強要してくるんだから! 「結城! やろう! 早くやろう! もう我慢できないよ!」って。本当に困っちゃうわ。カラダがもたないもの。ボクだって他にやりたいゲームもあるのにさぁ。あーちゃんのこと理解してあげたいけど、こればっかりは困るんだよねぇ。ほーんと」

 果たして三郎は、僕を離す。挑戦的に結城を押しのけて、腕相撲マシンの前へと進み出る。

「やる」

 一言だけそう言い放った。乾いた声色だった。
 結城がその傍らで愛想笑いを振りまく。

「あら、そうー。腕相撲仲間が出来てあーちゃんも喜ぶだろうなぁ。ボクがプレイできるように設定してあげるねー。はい、100円入れるね。ガシャーン」

「どーも」

 結城は自分の財布から100円玉を取り出し、投入口に入れた。
 奢りだった。
 先ほど、釣りイベントの金銭授受に難色を示していた彼らしくない。
 三郎から施しを受けるのも恩を売るのさえ嫌いそうだが。

 側面に取り付けられた操作パネルで、プレイ環境を整えていく。

「はい、腕を出して。うん、右手。袖は捲った方がいいね。そうそう、エルボーパッドに肘を付いて相手の手を持って。反対の手でグリップバーを握って」

「…………」

 手取り足取り教え、結城は三郎に腕相撲のホームポジションへと導く。
 甘い声で機嫌を探っている。
 急な手の平返し。親切すぎて不気味だ。
 この短時間に彼に何があったのだろう。

 そうか!
 2人の間で板挟みになっている僕の苦境を心配したか、あるいは先の釣りイベントで友情が芽生えたに違いない。
 元々、彼は誰とでも仲良くなれる。

 ここまで三郎にだって害意はなかった。ならば、わざわざギスギス殺伐とした関係であり続ける必要性もないのは自明の理。
 それか、敵対するより懐柔した方が有益だと踏んだのかもしれない。
 いずれにしろ、自分から歩み寄ろうと判断したのだ。

 平和的に穏便な解決に着地するなら、それ以上はない。

「じゃあ、スタートするね。難易度は最大にしておくね。これクリアできたら、あーちゃん君のこと尊敬しちゃうだろうなぁ」

 張りぼでのレスラーの目がピカリと光る。仕込まれた豆電球が点滅したのだ。
 彼が歪な動きで、頭、肩、腕を稼働させる。
 そして口がパカッと開く。そして咆える。

 『かかってこい! 貧弱なチキン野郎!』。

 ガラが悪い。
 この煽り文句も難易度によって異なる。
 全10種類。無駄に作り込まれていた。

 ん? 難易度最大?
 何かがひっかかる。
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