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ヤンデレ男の娘の取り扱い方2~デタラメブッキングデート~

64.廃校

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「うん……あ、そうだ。蛇崩衾学園のことなんだけどさ……」

 ふいに話題が切り替わり、ついていけずに箸を止める。

「じゃほう……なに?」

「ほら、今日会ったあの子、生徒手帳落とした……」

「あ……」

 三郎のことか。
 彼の生徒手帳に、確かそんな耳慣れない学校の名前が書かれていた。

 前置きのように、結城は咳払いを一つする。

「あの子だけどさ……あまり関わり合いにならない方が良いかも」

「……どうしてさ?」

 鬼三郎に関わらずに済むのなら、誰だってそうだろう。
 結城もまた、どこかで彼の過去について見聞を得たのか。
 彼に内在する恐ろしさを。

 しかし次に結城の口から出たのは、三郎本人の危険性についてではなかった。

「その地域の地元の知人に電話して聞いたんだけど、蛇崩衾学園ってさ、もうないみたいなんだ」

「ない? 廃校になったってこと?」

 彼は顔を左右に小さく振る。

「ううん。1年くらい前に、原因不明の出火で火事になって殆ど全焼しちゃったんだって。もちろん廃校には違いないんだけど」

「全焼……ってことは結構大きな火災だったんだね」

「そのはず……なんだけど、どうにも情報が少なくてよく分からないの」

 結城が箸先で、取り皿にあるオクラを所在なさげに弄ぶ。
 普段、僕がしたら叱ることを自分でしている。

「……どういう意味?」

「元々、特殊な訓練法を用いた分野の英才教育機関みたいなところだったらしい。でも山奥の酷く閉じられた環境にあって、入学方法も不明。在校生の数とか、中でどんな教育がされてるかも分からない。そこの地元だと、何かの実験場だったとかキナ臭い噂もあるみたい」

「へぇ……」

 そんな非日常な教育校が存在していたとは驚きだ。

 分野の英才教育と言ったが、三郎はどんな才能があったのだろう。
 暴力とか犯罪についてだろうか。
 そんな才能を伸ばして、どう得をするのかなど知る由もないが。

「それに蛇崩衾の火事って地元の新聞にも載ってないんだって。新聞どころかネットにも情報なし。地元の人たちは殆ど知っているのに。学園自体もそんな怪しいところだし、焼失したのは1年も前なのにその生徒手帳を持っているんだもの。やっぱり何か、あの子も、その……おかしいんじゃないかな……」

 結城の口ぶりだと三郎の過去についてはまだ知らないのか。
 その通り、彼はおかしい。
 それもおかしさなら超ド級のイカレ具合だ。

「分かった、なるべく関わらないようにするよ」

「ホント!」

 結城の顔が明るくほころぶ。
 元々、僕はそのつもりだった。
 どうやら完全な懸念で不安に陥っていたようだ。

「まぁ……なるべくね……努力はするよ」

 まだ三郎の言動が引っかかっていた。

『あーくんを探してた』

 僕にどんな用事があるのか。
 それは、なるべくなら穏便な物であってほしいと切に願う。

 結城……三郎……2つの悩み……。
 そのどちらも僕に出来る解決手段は、極力触れないようにすることにしか思えなかった。

 自分の両隣に、導火線に火の付いた爆弾がある。
 その爆弾は呼吸をしていて、火の回りは速くなったり遅くなったりする。
 だが、残り時間は刻々と減っていき、いずれ破裂は避けられない。

 そんな妄想が離れない。
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