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ヤンデレ男の娘の取り扱い方1
11.白昼夢
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夢を見ていた。
暗い、底なしの黒い空。虚無。
ただ闇だけが果てしなく満ちている。
地は紅い。
ぬめりを帯びた沼のような地面。
高い粘度が足に纏わりつき、それがどこまでも、地平線の先もずっとずっと続いている。
――――汝(なんじ)健やかなるときも、病めるときも
ゴォーン……ゴォーン……。
鐘の音がどこかから遠く響いている。
鈍く、錆びた鉄を思わせる不気味な音。
3回1組で、絶えず鳴り続けている。
――――喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも
出口はどこだろう……。
こんな所に居てはいけない。
帰るには……帰るには……。
――――これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い
グルるルゥぅゥ……。
低い唸り声。
獣じみた虎とも狼とも似つかない低い喉鳴らし。
狂ったサラウンド音声のように、二重三重に重なり合っている。
すぐ近くから聞こえた。
後ろを振り返る。
――――その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
真っ赤なケモノ。
体高は2メートルを超え、全長は4メートルはあろうか。
全身の毛皮からヌラヌラと赤い液体が滴っている。
イヌ科かネコ科か……そのどちらにも似ていない。
前足が3本、後ろ足が5本。
目が5つ、デタラメな場所に付いている。
どれもが血走り、こちらを見据えていた。
瞳に光がない。死人の目だ。
割けた口。凶悪な牙が生えている。
舌を出し、呼吸の度に獣臭い息が発せられ、僕に吹きかかる。
吐き気を催す酷い悪臭。
不味い……!
大脳が、間脳が、脳幹が、小脳が、一斉に警鐘を鳴らす。
目の前の獣から膨大な死の予兆を受けた。
グルるルゥぅゥ……。
動かない体に対する脳が防衛反応を起こす。
恐怖を対消滅させようと、絶叫しようとして、声が出ない。
鉛よりも重い空気が呼吸さえ停止させている。
ズブリッ……。
足が取られて上手く動かない。
地面はただの沼ではない。タールよりも濃い、血だまりだった。
ウォォおオォおオオオ!!!!
遠吠え。
人間の悲鳴にも聞こえる。
瞬間、獣が目にも止まらぬ速度で口を開け、喰らいついてきた。
避けることもできず、牙が体に喰い込み、四肢をバラバラに引き裂く。
僕の体が、まるで水風船のように弾けた。
飛散した僕の死骸を、獣が食べる。
肉も骨も牙に砕かれ、咀嚼され、胃の中に落ちていく。
何故か痛みも恐怖もなかった。
獣は泣いていた。
あったのは食欲ではなく、憎しみと愛情だった。
獣は僕を愛していた。
視界が暗くなる。
意識の消滅する刹那、遠くに何かが見えた。
黒い、巨体の鬼だった。
そいつは僕が喰われる様子を、遠くからじっと見ていた。
夢が、終わる。
「はっ……!」
目覚めると、そこは教室だった。
5時限目の終わった後の休み時間。
僕の五体は満足で、自分の机に突っ伏して寝ていた。
「あーちゃん、どうしたの? 汗だくだよ」
眼前に結城の顔がある。
「……ちょっと、嫌な夢を見ていたみたいだ。恐ろしい夢だった」
「夢?」
「えーと……紅くて、黒くて……」
「いいよ、そんな怖いこと無理に思い出さなくて。よしよし」
彼が僕の頭に手を乗せて撫でる。
慰めてくれているらしい。
「やめてくれよ、子供じゃないんだから」
「子供じゃないからこそ、怖いことだってあるんだよ。ボクの前で我慢しなくっていいんだ」
彼の手の温もりが、安心を与えてくれる。
恐怖と汗と震えが、少しずつ引いていく。
なすがままにされる。
奇異の目が向けられていないことが救いだった。
暗い、底なしの黒い空。虚無。
ただ闇だけが果てしなく満ちている。
地は紅い。
ぬめりを帯びた沼のような地面。
高い粘度が足に纏わりつき、それがどこまでも、地平線の先もずっとずっと続いている。
――――汝(なんじ)健やかなるときも、病めるときも
ゴォーン……ゴォーン……。
鐘の音がどこかから遠く響いている。
鈍く、錆びた鉄を思わせる不気味な音。
3回1組で、絶えず鳴り続けている。
――――喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも
出口はどこだろう……。
こんな所に居てはいけない。
帰るには……帰るには……。
――――これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い
グルるルゥぅゥ……。
低い唸り声。
獣じみた虎とも狼とも似つかない低い喉鳴らし。
狂ったサラウンド音声のように、二重三重に重なり合っている。
すぐ近くから聞こえた。
後ろを振り返る。
――――その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
真っ赤なケモノ。
体高は2メートルを超え、全長は4メートルはあろうか。
全身の毛皮からヌラヌラと赤い液体が滴っている。
イヌ科かネコ科か……そのどちらにも似ていない。
前足が3本、後ろ足が5本。
目が5つ、デタラメな場所に付いている。
どれもが血走り、こちらを見据えていた。
瞳に光がない。死人の目だ。
割けた口。凶悪な牙が生えている。
舌を出し、呼吸の度に獣臭い息が発せられ、僕に吹きかかる。
吐き気を催す酷い悪臭。
不味い……!
大脳が、間脳が、脳幹が、小脳が、一斉に警鐘を鳴らす。
目の前の獣から膨大な死の予兆を受けた。
グルるルゥぅゥ……。
動かない体に対する脳が防衛反応を起こす。
恐怖を対消滅させようと、絶叫しようとして、声が出ない。
鉛よりも重い空気が呼吸さえ停止させている。
ズブリッ……。
足が取られて上手く動かない。
地面はただの沼ではない。タールよりも濃い、血だまりだった。
ウォォおオォおオオオ!!!!
遠吠え。
人間の悲鳴にも聞こえる。
瞬間、獣が目にも止まらぬ速度で口を開け、喰らいついてきた。
避けることもできず、牙が体に喰い込み、四肢をバラバラに引き裂く。
僕の体が、まるで水風船のように弾けた。
飛散した僕の死骸を、獣が食べる。
肉も骨も牙に砕かれ、咀嚼され、胃の中に落ちていく。
何故か痛みも恐怖もなかった。
獣は泣いていた。
あったのは食欲ではなく、憎しみと愛情だった。
獣は僕を愛していた。
視界が暗くなる。
意識の消滅する刹那、遠くに何かが見えた。
黒い、巨体の鬼だった。
そいつは僕が喰われる様子を、遠くからじっと見ていた。
夢が、終わる。
「はっ……!」
目覚めると、そこは教室だった。
5時限目の終わった後の休み時間。
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「あーちゃん、どうしたの? 汗だくだよ」
眼前に結城の顔がある。
「……ちょっと、嫌な夢を見ていたみたいだ。恐ろしい夢だった」
「夢?」
「えーと……紅くて、黒くて……」
「いいよ、そんな怖いこと無理に思い出さなくて。よしよし」
彼が僕の頭に手を乗せて撫でる。
慰めてくれているらしい。
「やめてくれよ、子供じゃないんだから」
「子供じゃないからこそ、怖いことだってあるんだよ。ボクの前で我慢しなくっていいんだ」
彼の手の温もりが、安心を与えてくれる。
恐怖と汗と震えが、少しずつ引いていく。
なすがままにされる。
奇異の目が向けられていないことが救いだった。
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