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ヤンデレ男の娘の取り扱い方1

2.恋人

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 アクビが止まる。
 結城の言葉に思考が一瞬凍りついた。誰と誰が、何?

「恋人って、誰が?」

 彼は目覚ましを数秒だけ鳴らし、正常であると確認して元のベッド脇に戻す。やや不平を含んだ声色で咎める。

「ひっどーい、ボクたちに決まってるじゃない。どうしてそんなデリカシーのないこと言うの?」

 頭が混乱する。僕と結城が付き合っている? そんな話をいつしたのだろう。
 昨日の記憶を洗い出す。登校、授業、下校、放課後……。雑然とした記憶が入り混じり渦を巻く。
 ほどなくして思い出す。そういえば昨日の放課後、結城から告白されて交際を始めることになった。

「そうだった、ごめんごめん。ちょっと寝ぼけてただけだよ」

 寝起きとは言え、何故そんな重大事を忘れていたかといえば、実感が沸かなかったからだろう。

 結城との付き合いは産まれた頃から。実に人生の14年間、ほとんどの時間を共有している。お互い、良くも悪くも家族同然で空気のような存在だった。
 情が移り過ぎ、家族・親友の関係から恋人へ変化する心境の量が少なすぎる。

 彼の告白の言葉も重いものではく、まるで夕飯のメニューを決めるくらい軽い調子だったのも無関係ではあるまい。

 だからこそ、同性だとしてもインモラルな関係の構築に抵抗がなかった。
 また、傍目に同性だと意識させないくらい、彼の容姿が驚くくらい女性染みていたことも無関係ではないだろう。
 母校の女子生徒服もこれまた似合っている。仕草も少女そのもの。年季の入った着こなしっぷりである。

 今も、動揺はない。
 取り返しの付かない失敗をした後悔も一切ない。
 事実を事実としてそのまま受け入れる。

 結城がベッドに片膝を乗せ、顔をぐいっと近づけてくる。間近で見てもパーツが整っている。
 かと言って、見慣れすぎて動悸も昂ぶらない。僕たちの間柄は、美醜で狼狽しないくらい気のおけない関係として凝り固まっている。兄弟への感覚と大差ない。

 彼が小首を傾げ二つ結いを揺らす。人差し指で僕の顎をなぞり、苦笑する。

「もう少し恋人っぽく扱ってほしいナ」

「悪かったって。その、恋人としての接し方がわからないし」

 そこで腹の虫が鳴る。
 ぐー。
 起きた時から感じていた。階下から漂う味噌汁の香り。頭がハッキリしてきたことで空腹を顕著に認識したのだ。

 結城がベッドから降りて軽く笑う。彼の笑顔は見るだけで何故か落ち着く。

「アハハ、あーちゃんには色気より食い気かな。朝食にしよっか」

「いつもありがとう。今日はなに?」

 結城は我が家の調理の一切を取り仕切る。生涯のうちで、母親の手料理より彼の手料理を食べる回数が多くなった。それを疑問にすら思わない。

 彼が両手を後ろに隠し、悪戯っぽく身体を傾ける。後ろ手に回すのは隠し事がある時の癖。その仕草は、同級生の女子と比較しても差異がないほど堂に入っている。

「うふふ、なんだと思う?」

 数秒考える。味噌汁の匂いがしているから、一品は味噌汁で間違いない。もう一品くらい当てたい。
 先週いっぱいの朝食の献立を思い出す。肉、魚、野菜……。何があっただろうか。

「焼き魚、かな。あたり?」

 結城が部屋を出て行く。僕もその後に続く。

「あはは、大当たり。先週と一緒だもんね。後は納豆とほうれん草のおひたしだよ」

 いつも通りの空気。いつも通りの会話。僕たちは果たして付き合っていると言えるのだろうか。
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