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諦めること

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 浴室で一度だけシてから。千紘はそう言ったが、彼は一度だけではとても満足できなかった。仕事ができるギリギリまで。そんなふうに欲張ったものだから、もう少し、あと少しと考えている内に全く止められなくなってしまった。

「ぁっ、っ……いぁ……あぁっ……」

 凪の声が浴室に響き、何度目かわからない絶頂を迎えた。千紘はぐったりとした凪を抱えてベッドへ向かい、その後も何度も体を重ねた。
 それは本当に出会った頃の流れとそっくりで、2人はほとんど同時にその時のことを思い出していた。

 ただあの時と違うのは、凪の腕が千紘の首の後ろに回されていたこと。抵抗しない凪が、やめろと言わないこと。

「はっ……あっ……千紘っ!」

 あんなにも望んでいた名前呼びを体感できていること。キスをすれば凪からも舌を絡め、千紘が頬に唇を寄せればくすぐったそうに笑う。
 まるで恋人のようなセックスだった。今まで2人が行ったどんな性行為よりも甘くて淡いものだった。

「……腰、いてぇ……」

 ようやく満足した千紘が仰向けで凪の横に倒れ込むと、凪は唸るような声を振り絞った。

「俺も、明日筋肉痛になりそう……」

 千紘も頑張りすぎた自覚があった。しかし、凪から誘ってくることなどこの先あるだろうかと考えると、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。

「お前、全然手加減しねぇじゃん」

「するつもりだった。でもとまんなかったんだから仕方ない」

「お前……」

「凪だって受け入れたじゃん。やめろって言わなかった」

「言った」

「言ってない。今回に限っては絶対言ってない。俺の名前呼びながらもっと奥って言った」

 凪はじとーっと千紘を睨みつけてから、顔を隠すように掛け布団を頭の上から被った。確かに今回は、あっさりと受け入れてしまった。
 自分から誘ったこともあり、体が準備万端だったのだ。執拗とも思える千紘の愛撫を凪自身も何度となく求めてしまったのは事実だった。

「俺たち相性いいと思うんだよね」

 千紘は、布団ごとギューっと凪を抱きしめた。中でモゾモゾと凪がもがき、ひょこっと頭を出す。酸素を欲するかのようにはあっと息を吸い込んだ凪は「……悪くはないと思う」と小さく呟いた。
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