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諦めること
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千紘は、出勤してからも暫くぽやぽやとしていた。まるで現実味がなかった。一緒に家を出て、途中まで一緒に歩いた。
凪は自宅へ、千紘は職場へと別々の道を行く。
「じゃあ、また明後日ね」
「うん。仕事終わったら電話するわ」
凪がそう言って手を挙げた。
昨日会うまではもう何週間も会っていなかった。凪からの連絡だって何日となくて、既読マークがついているのに返信はなく、何度も自分が送った文章と睨めっこしたものだ。
いくら余裕ぶって見せても、千紘に余裕などあるわけがなかった。
連絡がないだけでいつだってもう二度と会えないんじゃないかと不安になるのだ。ラインのアカウントだって、電話番号だって確実なものではない。変えようと思えばいつでも変えられて、繋がりを絶とうと思えばそれもいつでも可能だった。
唯一約束されているのが次の美容院の予約くらいだ。予約表の大橋凪の名前を見て少しだけ安心する。けれど、それだって仕事の都合でキャンセルになるかもしれないし、再予約はされないかもしれない。
確かなものなど何もなく、当然心の繋がりもない。いつだって一方通行で、振り返ってくれるわけがないとわかっていながらも、追いかけ続けるしかない。
それでもしつこくすれば拒絶されるのがわかっているから、適度な距離感を保って凪の警戒心を少しずつ緩和させるしかないのだ。
そんな微量な努力をコツコツ重ねた結果なのか、遂に凪の方から次の約束をしてくれた。それも千紘の家だ。電話だって千紘からしなくても凪の方からかけると言ってくれた。
今までだったら絶対に考えられないことだった。
未だにこれが夢なんじゃないかと疑ってしまう。目が覚めたら、自分のベッドで1人眠っているんじゃないかなんて。
そんな現実など到底受け入れられそうにはないが、このふわふわとした感覚にも慣れそうになかった。
今の千紘は、昨日の凪の姿と今朝のやり取りを思い出し、余韻に浸るだけで精一杯だった。
凪は自宅へ、千紘は職場へと別々の道を行く。
「じゃあ、また明後日ね」
「うん。仕事終わったら電話するわ」
凪がそう言って手を挙げた。
昨日会うまではもう何週間も会っていなかった。凪からの連絡だって何日となくて、既読マークがついているのに返信はなく、何度も自分が送った文章と睨めっこしたものだ。
いくら余裕ぶって見せても、千紘に余裕などあるわけがなかった。
連絡がないだけでいつだってもう二度と会えないんじゃないかと不安になるのだ。ラインのアカウントだって、電話番号だって確実なものではない。変えようと思えばいつでも変えられて、繋がりを絶とうと思えばそれもいつでも可能だった。
唯一約束されているのが次の美容院の予約くらいだ。予約表の大橋凪の名前を見て少しだけ安心する。けれど、それだって仕事の都合でキャンセルになるかもしれないし、再予約はされないかもしれない。
確かなものなど何もなく、当然心の繋がりもない。いつだって一方通行で、振り返ってくれるわけがないとわかっていながらも、追いかけ続けるしかない。
それでもしつこくすれば拒絶されるのがわかっているから、適度な距離感を保って凪の警戒心を少しずつ緩和させるしかないのだ。
そんな微量な努力をコツコツ重ねた結果なのか、遂に凪の方から次の約束をしてくれた。それも千紘の家だ。電話だって千紘からしなくても凪の方からかけると言ってくれた。
今までだったら絶対に考えられないことだった。
未だにこれが夢なんじゃないかと疑ってしまう。目が覚めたら、自分のベッドで1人眠っているんじゃないかなんて。
そんな現実など到底受け入れられそうにはないが、このふわふわとした感覚にも慣れそうになかった。
今の千紘は、昨日の凪の姿と今朝のやり取りを思い出し、余韻に浸るだけで精一杯だった。
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