ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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気持ちは変わるもの

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「お前、重い」

 凪がそう言ってようやく千紘は頭をどかした。しかし、凪に腕枕されてから既に30分以上は経っていた。その間、凪は頭を撫でることはしなかったが、掌を千紘の頭においたままそっとしておいてやった。

「居心地よかった」

「あっそ」

「交代しようか?」

「いい」

「じゃあ、次回」

「……気が向いたら」

 絶対にヤダ。そう言われると思っていた千紘はまたもや驚かされるはめになった。なんだか前回までとは違う気がした。
 自宅に入れる前とも違う気もした。確かにアダルトグッズを見せてからかった時には本気で怯えて怒っていたはずなのに、あれから凪の中で何が変わったのか千紘には想像もつかなかった。

 けれど、理由などどうだってよかった。ほんの少しずつでも凪が自分を受け入れようとしてくれている気がしたのだ。その些細な変化を感じられただけで十分だった。

「お前、明日も仕事じゃないの?」

「仕事だよ。凪もでしょ?」

「俺はまぁ、11時からだから帰って十分寝れるし」

「……泊まってく?」

「泊まんねぇよ。仕事だろ」

「ん……。凪ならいつまで居てくれてもいいんだけど」

「俺も仕事なんだってば。帰るよ、そろそろ」

「残念」

 穏やかに会話をして、凪は上半身を起こした。散乱したティッシュペーパーと濡れたシーツ。それを目にして凪は顔をしかめた。

「すげぇな……」

「ね。片付けておくからいいよ」

「部屋、思ったより綺麗でビックリした」

 凪は率直な感想を述べた。もっと汚いと思っていたのに。清潔感たっぷりの男に似合う美しい部屋だった。なんとなくそれを伝えてやりたいと凪は思った。

「思ったよりってなに。俺、けっこう綺麗好きだよ」

「そうみたいだな。でも生活感なさすぎて自炊なんてしないだろうなって思う」

「んー、作れないこともないんだけどね。料理してる時間がもったいないっていうか。その時間あったらカットの練習できるし」

「料理できんのも意外」

 思っていた人物像とはだいぶ違うようだと凪は目を丸くさせた。出会って数ヶ月、何度か体を重ねてみても、知らないことの方がが多い。お互いに深い話をしないから、ふとした瞬間に知ることになるのだ。

「凪は料理しそうだね」

「今はあんまり。セラピストやる前は金もなかったから自炊してたけど」

「お金に余裕出てきて金銭感覚狂った?」

「いや、そんなことないと思う。ただ、まあ自炊はしなくなったな」

「じゃあ、凪と一緒に住んだら俺が作るね」

 にっこり笑う千紘に対し、凪はあからさまに嫌そうな顔をした。それから立ち上がって服を纏う。腰から下半身にかけて重くて鈍い痛みが走った。しかし、腹の中ではキュンと何かが疼き、凪は浅く息をついた。
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