ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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体だけでも

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 ピタッと動きを停めた千紘。凪の毛先を左頬に感じながら、大きく目を見開いた。途端に初めてちゃんと凪と対面した時のことを思い出した。
 自分のことを女性だと思いながら笑顔で名前を呼んでくれたこと。優しい声色で話しかけてくれたこと。丁寧にゆっくりと緊張を解すかのように流れを説明してくれたこと。
 仕事だとわかっていても嬉しかった。その幸福にタイムリミットがあるとわかっていても胸を高鳴らせずにはいられなかった。
 好きだという気持ちが溢れて、全て言葉にしてしまいたかった。

 そんな懐かしい記憶が蘇る。きっと凪は、あの時と同じように優しく微笑んではくれないし、甘く名前を呼んでもくれない。けれど、切羽詰まった声で、確かに自分の名前を呼んだのだ。

 千紘は大きく瞳を揺らし、軽く目を閉じた。その幸せを噛み締めるかのように。それからゆっくりと体を起こすと、次の瞬間にはとぼけた顔をして「なに? 聞こえなかった」と言った。

「は!? う、嘘だっ」

 凪は真っ赤な顔をして、思わず名前を呼んでしまったことを恥じらう。名前なんて呼ぶつもりはなかったのに。そうは思っても、やめて欲しい一心で飛び出した千紘の名前。
 約束通り、一旦動きは止まったが、千紘の顔はどうやらやめてくれそうにはなかった。

「もっとって言った?」

「言ってねぇ!」

「そ。刺激が足りないのかと思った」

 あっさりとそう言ってのけた千紘は、手を上下に動かして、凪の下半身への刺激を続けた。軽く体を仰け反らした凪は、「うぁ……」と苦しそうな声を上げた。

「苦しいの? イキたい?」

「違っ……まっ、まだ、やだって」

「んー、やだ? 聞こえないなぁ」

 千紘は穏やかに微笑みながら、少しずつスピードを上げた。驚くほどの速さで駆け巡る快感に、凪は目をギュッと閉じた。

「やだって! 千紘! ちひ……ろ、やだ」

 千紘の名前を呼びながら強く目を瞑る凪の姿に、千紘は頬を緩めた。愛しくて、可愛くて仕方なかった。
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