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愛情は感じるもの

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 依の怒鳴り声などすっかり慣れてしまっている千景は今更動じたりはしない。

「知ってるけど、亜純の方は違う。そうでしょ? もう他人に戻ったんだからそっとしておいてやりなよ。連絡取れないのが全てじゃないの?」

 そこまで言うつもりはなかったが、亜純があんなにも嬉しそうに好きな男ができたのだと話しているのを聞いたらどうしたって依からは解放させてやりたいと思った。
 真白と依に不信感を覚え、自分で恋愛ができなかったコンプレックスを抱いているであろうことは千景にもわかっていた。

 亜純は自分や他人の成長を素直に喜べる人間だ。自らの力でコンプレックスを克服しようとしている姿は純粋に応援したくなるものだった。
 あの熱量だから、今更依が出てきたところで過去は過去として相手にもされないだろう。復縁はきっとないと思えるが、一方的に付きまとうのだけはやめてほしいと思った。

「……亜純は、俺のことなんか言ってた?」

「言ってないよ。悪くも言ってない。ただ、次の恋愛には前向きだよ。本気で亜純のことが好きなら、亜純の幸せを喜んであげなよ」

「お前はいいよな。本気で誰かを好きになったこともないから平然と他人の幸せを喜べるんだろ」

「そりゃ依ほどの熱量をもって好きになった人はいないけどさ、今まで付き合った子だってそれなりに大切だったし、別れた今は幸せだといいなって思えるよ」

「俺は亜純しかいらなかったんだよ。他の女じゃ嫌だった。だから結婚したのに他の男と幸せになることを喜べるわけないだろ」

「その話は何回もしたじゃん。依とじゃ幸せになれなかったから他の男を選んだんだからさ、いい加減現実を受け止めなよ。それができたからアパート片付けたんじゃないの?」

 千景が言えば、依はふっと顔を伏せた。アパートを片付けたのは、亜純との思い出が嬉しいものではなく、辛いものに変わってしまったからであって、決して吹っ切れたからではなかった。亜純の恋を応援なんてできるわけがないと拳をギュッとにぎった。
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