したい夜はきみとじゃない

想いの矛先

10

　千景との電話を切ってから、亜純は改めて依とのことを考えた。依のことは本気で好きだった。大切だった。
　依が自分を大切に扱ってくれたからだ。真白にも依はいい奴だと言われたからだ。
　今までの気持ちに偽りはないが、2人に仕組まれていた恋愛。

　もしも私が依と付き合っていなかったら、自然と他に好きな人ができて付き合って、結婚して、今頃子供もいたかな……。
　恋愛感情というものが沸いたかどうかも怪しいが、依には期待できなくなった子供の存在が過ぎる。

　ほとんどの人は結婚したら子供を望むよね。中には産まないことを選ぶ人もいるけど……結婚する前に子供が欲しいかどうかは話し合うよね。
　大丈夫。私はまだ恋愛できる歳だもん。これから好きになる人だっているよ、絶対。依よりも好きな人を見つけるんだ。真白に薦められなくたって自分が惹かれた人と幸せになるんだ。
　誰かに仕組まれた結婚なんかもう懲り懲り。私は私の力で幸せになりたい。

　亜純は強くそう思った。
　依との離婚は簡単ではなかった。依の両親がどうか依と別れないでやってくれと泣きながら説得してきたからだ。
　10代から知っている義父母は自分の両親も同等。義母に関してはとてもよくしてもらい、依よりも亜純の味方をしてくれるほどだった。
　本当の娘のように扱ってくれた義父母には申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、依の子供に対する考えも伝えた。孫を欲しがっていた義父母もショックを受けていた。
　しかしそれでも依には亜純しかいないのだと全く引かなかった。

　依はといえば亜純と会えるならどんな理由でもいいから会いたいと何度か連絡をしてきたが、その度に亜純が離婚の話をするととうとう依からの連絡も途絶えた。
　けれど、一向に記入済みの離婚届は届かない。埒が明かないなら、離婚調停も視野にいれるしかないかもしれない。そんな話を義父母にして、ようやく3ヶ月と少しが経った頃、記入済の離婚届を持って依がやってきた。