したい夜はきみとじゃない

想いの矛先

09

　千景と長く話すつもりはなかったが、気付けば1時間が経過していた。聞き上手な千景と話していると、時間はあっという間に過ぎていく気がした。
　もしかしたら千景も依と真白と協力関係にあったのかも……と不安になった気持ちも今ではすっかりなくなっていた。

　真白のこともすぐに解決する必要はないと言われ、気持ちの整理がつくまで真白からのメッセージを開くのはやめておこうと改めて思った。
　真白には何か理由があったのかもしれない。けれど、その理由が何にせよ依との離婚は決意してしまったのだ。そしてその理由は真白とのことだけではない。依の子供に対する考え方、夫婦としての理想像に相違があること。それが1番の原因だ。

　真白との関係は後付けに過ぎない。別問題として考えよう。まだ何も解決してはいないけど、解決する順番もそこへ向かって計画を立てることもやるべきことは決まった。なんとか道筋は見えたと少しだけ前を向けるようになった。

「千景、ありがとう。ちょっと気持ちが楽になった」

「ううん。俺は何もしてないよ。結局俺も知らないことだらけだったし」

「うん……。ごめん、本当は千景のこともちょっと疑ってたの」

「はは。言わなくていいことなのに。亜純は本当に律儀で素直だね。それでも電話をくれてありがとうね」

　亜純はじーんと心が暖かくなるのを感じた。千景からのありがとうは本当のありがとうに聞こえた。
　依は毎日のようにありがとうもごめんねも言ってくれたが、今になって思えば毎度中身のないような、挨拶程度の軽いものだったような気がした。

　率直に千景のことも信用できなかったと言っているようなものなのに、それでも千景は笑ってお礼を言ってくれる。
　私にはまだ心の支えとなる友人がいてくれる。そう思うだけで心強かった。