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夫婦のかたち

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「やだ……。亜純が安心するまで抱きしめてたい」

 依は、自分の温もりが亜純を安心させるものだと信じて疑わない様子だった。亜純は、その依の言い様にも嫌悪を示した。

「違う……。依に触れて欲しくないの」

「は?」

「なんか、もう……依のこと」

「待ってよ。触れて欲しくないってなんでそんなこと言うんだよ。俺がずっと抱かずにいたから? それなら謝るし、今日は」

 亜純は、依が喋っている途中で、どんっと勢いよく依の胸板を両手で押し退けた。自然と2人の間に距離ができて依は呆然とした。
 亜純に触れることを拒否されたことなどなかった。触らないでと言われたこともなければ、手を振り払われたことだってもちろんない。いつだって依が触れたい時に亜純に触れ、それを温かく受け入れてくれた。

 しかし亜純の表情は曇っていて、今までのようにまるでペットを可愛がるみたいに頭を撫でてくれることも、頬を擦り寄せてくれることもなかった。

 亜純はキュッと唇を結んだ。こんな状況でも今夜自分を抱こうとしている依のことが気持ち悪いと思ってしまった。
 とても同じベッドで眠れる気がしなかった。次に触れられたら叫んでしまいそうで、全身が依を拒絶していた。

「亜純……ごめんて。亜純がそんなに悩んでたなんて俺思ってなくて……。さっきも言ったけど、亜純とエッチしたくなくてしなかったんじゃないんだよ? 俺は」

「もういいの……。依との子供ももういらない」

「え? ……本当?」

 亜純は見逃さなかった。その瞬間、依が嬉しそうに口角を緩めたのを。この男は、亜純から子供はいらないと言われるのを待っていたのだ。自分の意見が通るのを待ち望んでいたのだ。

 私はなんでこんな人の子供が欲しかったんだろう……。悲しい。昨日まであんなに好きだったのに。こんなに短時間で気持ちが変わってしまうなんて……。私の愛情がこの程度だったなんて。

 亜純は、依の態度に落胆しつつ自分の感情の変化にもひどくガッカリした。
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