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夫婦のかたち

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「亜純……帰ってきてくれてよかった」

 依は本心からそう言った。亜純は安堵する依の顔を見ても、同じように安心などできない。今までは依の存在自体が安心そのものだった。
 依の全てを懸けて自分を守ってくれるようなそんな頼もしい存在。けれどそれも1年前から少しずつ積み重なった不信感から崩れつつある。

「仕事もあるし……行くところもないし」

「うん……」

 依はいつものように手を伸ばし、亜純を抱きしめた。大切なものを抱えるように優しく。しかし、亜純はその瞬間ゾワリと鳥肌が立つのを感じた。
 4年間も子供はいらないと思いながら自分を抱き、そのくせ五体満足でない子供が産まれたら可愛がれないと言い放った男だ。

 どんなに優しいことばをかけられても、優しく触れられても、自分の気持ちを蔑ろにされた気分は拭えなかった。
 亜純の気持ちも思いも考えず、自分の好意と性欲に身を任せていた男だ。

 亜純は依が子供を望んでくれさえすれば、全ては解決する。そう思っていたはずが、依に触れられることすら嫌だと感じた。
 あんなにも求められないことが辛かったはずなのに、今となっては依に抱かれたいとは少しも思わなかった。

「離して……」

 亜純は依の胸を両手で押して、距離をとった。亜純自身、自分の中で渦巻く嫌悪に戸惑った。
 こんなに依が嫌だと感じたことはなかった。昨日まで当たり前のように好きだった人。この人の子供が欲しいと願った相手。

 それなのになぜか、依の子供ならいらない……なんて心のどこかで叫んでいる自分がいるような気がした。
 1人で考えていた時も、千景と話していた時も、何とか依と関係を再構築できないか考えた。どうしたら子供を授かれるだろうか、依が父親として前向きになってくれるだろうかと考えた。

 それなのに、実際に依の顔を見て肌に触れられたら、何年もの裏切り行為が前面に見えてこれ以上一緒にいるのは無理かもしれない……そうひっそりと思った。
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