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神室歩澄の正室【22】
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城に戻った澪は、着替えを済ませると大広間へ戻る歩澄とは別に、客室に紬と朱々を招待し夕餉を振る舞った。
澪の髪は、時間が経ち既に鮮やかな赤から暗赤色に戻ろうとしていた。しかし、徐々に戻りつつある色が明暗の層をいくつも作り、それはそれでとても美しくあった。
なんとも不思議な髪と、服装はいつも通り派手なものではない着物に変えたものの化粧を落としていない澪の顔は未だ美しかった。
それを近くで目にした紬と朱々は、すぐにでも帰りたかったが統主の面目もあるため泣く泣くその場に留まった。
「本日はお越し下さりありがとうございました。栄泰郷は城下町を堪能させていただきましたし、洸烈郷では村民達の稽古する姿を見られてそれぞれの郷の特徴を楽しむことができました。是非紬様も朱々様も潤銘郷の城下を満喫していって下さいね」
澪がにっこりと微笑む。白い歯が光り、白い肌とよく合っていた。己達の夫すらも魅了させるその美しさに嫉妬心は渦巻く。
しかし、そんなことを感じさせぬようぐっと堪え二人は笑顔を作った。
「澪殿、この度はおめでとうございます。前回の顔合わせからそれほど時は経っていませんが、こうして同じ正室として再び会えたことを嬉しく思います。明日は煌明様と共に城下町を回るつもりです。異国の珍しい物が揃っていると聞きますし、今から楽しみです」
朱々は張り付いた笑顔でそう言った。紬よりも正室としての経験が長い分、よそ行きの顔を作るのには慣れている。思ってもいない言葉を口にしながらも、正室としての役目は保っている。
そんな姿を横目に紬も必死に笑みを浮かべる。
「私も明日、旦那様と城下に行ってまいります。正室という身は心労も絶えませんが、お互い良い郷にできるよう協力していけたらいいですね」
そんな上辺だけの言葉を並べた。紬には協力する気もないが、良い郷にするのは統主の役目であると思っている。しかし、朱々の手前不躾な態度も取れないと朱々同様、正室としての振る舞いを続けた。
「お二人共ありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。……さあ、お食事が冷めない内に召し上がって下さい。朱々様はお酒がお好きでしたよね。潤銘郷のとっておきのお酒を用意してあります。紬様は甘味がお好きだと聞きました。歩澄様付きの料理人が腕に縒りを掛けて作った甘味があります故、楽しみしていて下さい」
澪がそう言ったことで、少しだけ二人の表情が和らいだ。好物を上げられては、本能が騒ぎ出す。
潤銘郷のとっておきの酒とはどんなに美味か、統主付きの料理人の作った甘味はさぞ美味であろうと喉を鳴らす。
澪は二人の反応に満足そうに微笑み、直ぐに酒を用意させた。異国の高級酒に紬も朱々も一口飲んでほっと息をつく。味わったことのない深い味わいで癖になりそうだった。
膳には栄泰郷でも洸烈郷でも見たことのない異国の料理が並んでおり、恐る恐る食事に手を付けてみれば言葉を失う程の美味であった。
肉や魚の味付けは新しく、野菜は柔らかく甘味があった。箸を持つ手が止まらない二人を見て、澪も初めて潤銘郷の食事を味わった時の衝撃を思い出していた。
澪の髪は、時間が経ち既に鮮やかな赤から暗赤色に戻ろうとしていた。しかし、徐々に戻りつつある色が明暗の層をいくつも作り、それはそれでとても美しくあった。
なんとも不思議な髪と、服装はいつも通り派手なものではない着物に変えたものの化粧を落としていない澪の顔は未だ美しかった。
それを近くで目にした紬と朱々は、すぐにでも帰りたかったが統主の面目もあるため泣く泣くその場に留まった。
「本日はお越し下さりありがとうございました。栄泰郷は城下町を堪能させていただきましたし、洸烈郷では村民達の稽古する姿を見られてそれぞれの郷の特徴を楽しむことができました。是非紬様も朱々様も潤銘郷の城下を満喫していって下さいね」
澪がにっこりと微笑む。白い歯が光り、白い肌とよく合っていた。己達の夫すらも魅了させるその美しさに嫉妬心は渦巻く。
しかし、そんなことを感じさせぬようぐっと堪え二人は笑顔を作った。
「澪殿、この度はおめでとうございます。前回の顔合わせからそれほど時は経っていませんが、こうして同じ正室として再び会えたことを嬉しく思います。明日は煌明様と共に城下町を回るつもりです。異国の珍しい物が揃っていると聞きますし、今から楽しみです」
朱々は張り付いた笑顔でそう言った。紬よりも正室としての経験が長い分、よそ行きの顔を作るのには慣れている。思ってもいない言葉を口にしながらも、正室としての役目は保っている。
そんな姿を横目に紬も必死に笑みを浮かべる。
「私も明日、旦那様と城下に行ってまいります。正室という身は心労も絶えませんが、お互い良い郷にできるよう協力していけたらいいですね」
そんな上辺だけの言葉を並べた。紬には協力する気もないが、良い郷にするのは統主の役目であると思っている。しかし、朱々の手前不躾な態度も取れないと朱々同様、正室としての振る舞いを続けた。
「お二人共ありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。……さあ、お食事が冷めない内に召し上がって下さい。朱々様はお酒がお好きでしたよね。潤銘郷のとっておきのお酒を用意してあります。紬様は甘味がお好きだと聞きました。歩澄様付きの料理人が腕に縒りを掛けて作った甘味があります故、楽しみしていて下さい」
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潤銘郷のとっておきの酒とはどんなに美味か、統主付きの料理人の作った甘味はさぞ美味であろうと喉を鳴らす。
澪は二人の反応に満足そうに微笑み、直ぐに酒を用意させた。異国の高級酒に紬も朱々も一口飲んでほっと息をつく。味わったことのない深い味わいで癖になりそうだった。
膳には栄泰郷でも洸烈郷でも見たことのない異国の料理が並んでおり、恐る恐る食事に手を付けてみれば言葉を失う程の美味であった。
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