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失われた村【11】
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「食物の支給も喜んでいた。お前達、よくやってくれた」
歩澄が三人に目を向けると、彼等はその場で頭を下げた。
「それと各々家来達の稽古を強化してくれぬか」
「強化……?」
瑛梓はぽつりとそう言って首を傾げた。秀虎は「私のところは既に新しく鍛練を取り入れております。澪に弱すぎると言われてしまいまして」と言いにくそうに言った。
「そうか。お前達もより身を引き締め高みを目指して欲しい」
「……どうされたのですか?」
梓月は目を瞬かせてそう尋ねた。瑛梓と梓月の鍛練の努力を知っている歩澄が、これ以上強くなれと言うのは珍しいことであった。
「……澪の師匠が誰だったかわかった」
「あの、強くて逞しくて、体が凄く大きい男ですか?」
梓月は未だ根に持つように言った。
「ああ」
「私達の知る人間なのですか?」
「……あの大剣豪勧玄だ」
「!!?」
三人は同時に顔を強ばらせた。
「勧玄!? あの勧玄ですか!?」
普段冷静な瑛梓までもが腰を上げて詰め寄る。
「そうだ。あの勧玄の力を全て継承しているようだ」
「で、では……あの颯の一件も……」
「恐らく徳昂の家来相手に本気など出してはいない。遊んでやった程度であろう」
「しかしっ、いくら徳昂殿の家来とはいえ、それなりの戦闘力を持った男五十名です!」
「颯が言うことには、息一つ乱していなかったそうだ」
歩澄がそう言うと、三人は顔をひきつらせた。
「私も実際澪と手合わせをしたわけではないが、この城で澪が一番強いというのは面目が立たぬ……各々、稽古に取り組んでくれぬか」
「……承知致しました」
三人は肩を落として、了承した。
匠閃郷での話が一段落したところで、障子の向こう側から声がかかった。
「入れ」
歩澄が許可すると、入ってきたのは五平であった。
「申し訳ありません、評定中でしたか?」
額を畳に向け、様子を伺うように視線を上に向けた。以前なら下っ端である五平が歩澄と関わる事などほとんどなかったが、歩澄と澪が恋仲になって以来、澪が目をかけていた五平と琥太郎に度々声がかかるようになっていた。
此度も受け取った書状を歩澄に渡しに来たところであった。
「かまわん。何用だ」
「はい。たった今、栄泰郷統主、八雲様から使いの者がみえまして……これを歩澄様にと」
そう言って五平は書状を手渡した。歩澄は怪訝な表情を浮かべて受けとると、その場で書状を広げた。
「またあの男か……今度は何だと言うのだ」
千依のこととてまだ許したわけではない。そこへきて燈獅子を囮にして歩澄の首をとろうとしたことすらもそのままになっている。
しかし、どこまでも暢気な八雲皇成は、書状にまで澪を連れて遊びに来いと書かいてあった。
歩澄は額にいくつもの青筋を作り「何故澪の事が割れている?」と五平に尋ねた。歩澄の気迫が増大する中、五平は震え上がりそうになりながら「ほ、歩澄様と澪殿の関係は既に城下まで噂が流れておりまして、どうやらその波は栄泰郷まで行き着いたようでして……」と答えた。
家来も民も、歩澄のお目出度い話であればと喜んで話は広まった。城下では、温泉で髪の濡れた澪の姿を貴婦人達に見られている。もしやあの赤髪の娘がそうなのではないかと噂が広まり、歩澄様が見初められた姫君は、それはそれは美しい赤髪の姫だと噂に尾ひれがついて出回っていた。
歩澄が三人に目を向けると、彼等はその場で頭を下げた。
「それと各々家来達の稽古を強化してくれぬか」
「強化……?」
瑛梓はぽつりとそう言って首を傾げた。秀虎は「私のところは既に新しく鍛練を取り入れております。澪に弱すぎると言われてしまいまして」と言いにくそうに言った。
「そうか。お前達もより身を引き締め高みを目指して欲しい」
「……どうされたのですか?」
梓月は目を瞬かせてそう尋ねた。瑛梓と梓月の鍛練の努力を知っている歩澄が、これ以上強くなれと言うのは珍しいことであった。
「……澪の師匠が誰だったかわかった」
「あの、強くて逞しくて、体が凄く大きい男ですか?」
梓月は未だ根に持つように言った。
「ああ」
「私達の知る人間なのですか?」
「……あの大剣豪勧玄だ」
「!!?」
三人は同時に顔を強ばらせた。
「勧玄!? あの勧玄ですか!?」
普段冷静な瑛梓までもが腰を上げて詰め寄る。
「そうだ。あの勧玄の力を全て継承しているようだ」
「で、では……あの颯の一件も……」
「恐らく徳昂の家来相手に本気など出してはいない。遊んでやった程度であろう」
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「颯が言うことには、息一つ乱していなかったそうだ」
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「私も実際澪と手合わせをしたわけではないが、この城で澪が一番強いというのは面目が立たぬ……各々、稽古に取り組んでくれぬか」
「……承知致しました」
三人は肩を落として、了承した。
匠閃郷での話が一段落したところで、障子の向こう側から声がかかった。
「入れ」
歩澄が許可すると、入ってきたのは五平であった。
「申し訳ありません、評定中でしたか?」
額を畳に向け、様子を伺うように視線を上に向けた。以前なら下っ端である五平が歩澄と関わる事などほとんどなかったが、歩澄と澪が恋仲になって以来、澪が目をかけていた五平と琥太郎に度々声がかかるようになっていた。
此度も受け取った書状を歩澄に渡しに来たところであった。
「かまわん。何用だ」
「はい。たった今、栄泰郷統主、八雲様から使いの者がみえまして……これを歩澄様にと」
そう言って五平は書状を手渡した。歩澄は怪訝な表情を浮かべて受けとると、その場で書状を広げた。
「またあの男か……今度は何だと言うのだ」
千依のこととてまだ許したわけではない。そこへきて燈獅子を囮にして歩澄の首をとろうとしたことすらもそのままになっている。
しかし、どこまでも暢気な八雲皇成は、書状にまで澪を連れて遊びに来いと書かいてあった。
歩澄は額にいくつもの青筋を作り「何故澪の事が割れている?」と五平に尋ねた。歩澄の気迫が増大する中、五平は震え上がりそうになりながら「ほ、歩澄様と澪殿の関係は既に城下まで噂が流れておりまして、どうやらその波は栄泰郷まで行き着いたようでして……」と答えた。
家来も民も、歩澄のお目出度い話であればと喜んで話は広まった。城下では、温泉で髪の濡れた澪の姿を貴婦人達に見られている。もしやあの赤髪の娘がそうなのではないかと噂が広まり、歩澄様が見初められた姫君は、それはそれは美しい赤髪の姫だと噂に尾ひれがついて出回っていた。
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