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赤髪の少女【36】
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「……違うのですか?」
「違う! 梓乃は瑛梓と梓月と共に私と養子縁組をしている」
「……え?」
「私の妹に当たる。此度は、梓乃が結婚する故、親代わりの私が先方に挨拶に伺うための依頼としてやってきたのだ」
「……結婚?」
澪は考えもしていなかった事実に思考がついていけずにいた。しかし、全てが己の勘違いであったと徐々に羞恥心が沸き上がっていった。
「梓乃の来城の由を説明しなかった私にも非はある。……私は必ず国王になる。お前の刀と九重の刀を取り返してな。お前が世話になった村も匠閃郷も私が守る。大切な物を全て含め、お前を私に守らせてはくれぬか?」
歩澄は真剣な眼差しでじっと澪の目を見つめた。
「……私を守って下さるのですか?」
澪は、守りたいと申し出を受けたのはこれが初めてであった。今まで己の身は己で守れと言われてきたのだ。その為、誰よりも強く勇ましく生きてきた。誰かに身を預けようなどと考えた事もなかった。
その言葉に胸が熱くなり、ぽろっと一筋涙が溢れた。
「ああ、約束しよう。そして、二度と不安にさせたりなどしない」
そう言って歩澄は、澪の頬に流れる涙を親指で拭った。
「……私、これからもっと強くなりますよ?」
「では、私はその上を行くまでだな」
こんな時でも悪態をつく澪に歩澄はふっと笑みを溢し、澪の頬を手で包んだ。澪の瞳を捕らえたまま唇を重ねた。
腰を引き、腕の中に澪の体を収めると、愛しそうに澪の髪にも唇を落とした。
その様子を離れたところから見ていた空穏は、息が止まるかと思う程の衝撃を受けた。
たった四年離れただけだ。去年までは勧玄の傍にいたはず。この一年で何があったのか。
「澪がその敵に出会う前にかっ拐うんだな 」
勧玄の言葉が脳裏に響いた。
(まさか……あの男がその敵だとでもいうのか?)
空穏は信じられないと、瞳を揺らす。再び歩澄に頬を包まれ、額同士をくっ付けながら嬉しそうに微笑む澪の姿。
あんなにも女らしい澪の顔を見るのは初めてだった。
歩澄と距離をとった澪は、空穏の元に駆けていった。
「空穏、ごめん……。私、やっぱり一緒にいけない。歩澄様と一緒にいたいから」
二人の様子を見て、危惧していた言葉を放った澪に空穏は顔を歪めた。
「潤銘郷に戻ったら、俺達敵になるんだぞ?」
「それでも行けない……。玄浬はいつか私が貰いにいく」
澪は真っ直ぐ空穏の目を見つめた。
「渡さねぇよ」
空穏はぎりっと歯を食い縛り、低い声で唸った。
「それでも行く」
「……後悔しても知らないぞ?」
「今歩澄様と一緒に戻らなかったら、きっと私後悔する」
しっかりと覚悟を決めた、意思を強く持った目をしていた。こういう時の澪は、誰が何を言っても無駄だと空穏は知っていた。
「一つ聞かせてくれ。……歩澄様の事はいつから?」
空穏には理解できなかった。何故己の家族を殺した相手と恋仲となることができるのか。
「……初恋なの。六つの時、歩澄様と出会ってそれからずっと……」
澪は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
胸の中にいるでっかい敵とは、幼い頃より慕情を抱いていた歩澄の事であったのかと空穏は絶句した。
最初から澪は歩澄しか見ていなかったのだ。誰も入り込む隙などなかった。
何とも言えぬ悔しさだけが空穏を支配した。
そっと近付いて来た歩澄が空穏に視線を向け「悪いな。澪は私のものだ。もらっていくぞ」と言った。
「ほ、歩澄様!?」
「帰るぞ」
歩澄が柔らかく微笑むと、澪は満面の笑みを向けた。
(俺に澪のこの笑顔が引き出せるだろうか……)
徐々に自信を喪失していく空穏は、何も言わず馬に乗った。
「空穏、本当にごめん!」
「……王になるのは煌明様だ。それだけは覚えておいてくれ」
そう言い残して空穏は馬を走らせた。その背中を見送ってから、歩澄は澪と共に潤銘城へと戻るのだった。
「違う! 梓乃は瑛梓と梓月と共に私と養子縁組をしている」
「……え?」
「私の妹に当たる。此度は、梓乃が結婚する故、親代わりの私が先方に挨拶に伺うための依頼としてやってきたのだ」
「……結婚?」
澪は考えもしていなかった事実に思考がついていけずにいた。しかし、全てが己の勘違いであったと徐々に羞恥心が沸き上がっていった。
「梓乃の来城の由を説明しなかった私にも非はある。……私は必ず国王になる。お前の刀と九重の刀を取り返してな。お前が世話になった村も匠閃郷も私が守る。大切な物を全て含め、お前を私に守らせてはくれぬか?」
歩澄は真剣な眼差しでじっと澪の目を見つめた。
「……私を守って下さるのですか?」
澪は、守りたいと申し出を受けたのはこれが初めてであった。今まで己の身は己で守れと言われてきたのだ。その為、誰よりも強く勇ましく生きてきた。誰かに身を預けようなどと考えた事もなかった。
その言葉に胸が熱くなり、ぽろっと一筋涙が溢れた。
「ああ、約束しよう。そして、二度と不安にさせたりなどしない」
そう言って歩澄は、澪の頬に流れる涙を親指で拭った。
「……私、これからもっと強くなりますよ?」
「では、私はその上を行くまでだな」
こんな時でも悪態をつく澪に歩澄はふっと笑みを溢し、澪の頬を手で包んだ。澪の瞳を捕らえたまま唇を重ねた。
腰を引き、腕の中に澪の体を収めると、愛しそうに澪の髪にも唇を落とした。
その様子を離れたところから見ていた空穏は、息が止まるかと思う程の衝撃を受けた。
たった四年離れただけだ。去年までは勧玄の傍にいたはず。この一年で何があったのか。
「澪がその敵に出会う前にかっ拐うんだな 」
勧玄の言葉が脳裏に響いた。
(まさか……あの男がその敵だとでもいうのか?)
空穏は信じられないと、瞳を揺らす。再び歩澄に頬を包まれ、額同士をくっ付けながら嬉しそうに微笑む澪の姿。
あんなにも女らしい澪の顔を見るのは初めてだった。
歩澄と距離をとった澪は、空穏の元に駆けていった。
「空穏、ごめん……。私、やっぱり一緒にいけない。歩澄様と一緒にいたいから」
二人の様子を見て、危惧していた言葉を放った澪に空穏は顔を歪めた。
「潤銘郷に戻ったら、俺達敵になるんだぞ?」
「それでも行けない……。玄浬はいつか私が貰いにいく」
澪は真っ直ぐ空穏の目を見つめた。
「渡さねぇよ」
空穏はぎりっと歯を食い縛り、低い声で唸った。
「それでも行く」
「……後悔しても知らないぞ?」
「今歩澄様と一緒に戻らなかったら、きっと私後悔する」
しっかりと覚悟を決めた、意思を強く持った目をしていた。こういう時の澪は、誰が何を言っても無駄だと空穏は知っていた。
「一つ聞かせてくれ。……歩澄様の事はいつから?」
空穏には理解できなかった。何故己の家族を殺した相手と恋仲となることができるのか。
「……初恋なの。六つの時、歩澄様と出会ってそれからずっと……」
澪は、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
胸の中にいるでっかい敵とは、幼い頃より慕情を抱いていた歩澄の事であったのかと空穏は絶句した。
最初から澪は歩澄しか見ていなかったのだ。誰も入り込む隙などなかった。
何とも言えぬ悔しさだけが空穏を支配した。
そっと近付いて来た歩澄が空穏に視線を向け「悪いな。澪は私のものだ。もらっていくぞ」と言った。
「ほ、歩澄様!?」
「帰るぞ」
歩澄が柔らかく微笑むと、澪は満面の笑みを向けた。
(俺に澪のこの笑顔が引き出せるだろうか……)
徐々に自信を喪失していく空穏は、何も言わず馬に乗った。
「空穏、本当にごめん!」
「……王になるのは煌明様だ。それだけは覚えておいてくれ」
そう言い残して空穏は馬を走らせた。その背中を見送ってから、歩澄は澪と共に潤銘城へと戻るのだった。
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