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赤髪の少女【25】

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 落ち着いた琥太郎を自室に残し、澪は徳昂のところへ向かった。
 丁度恐怖に怯えた颯が脱がされた着物を体に巻き付け、徳昂の前で踞っていた。

「……颯にこのような仕打ちをしたのはお前か?」

 徳昂は、怒りに震えながら澪を見た。

「ええ。五平と琥太郎くんに酷い事をしたようでしたので、同じように……」

「同じようにだと? ふん。あやつらが弱いから悪いのではないか」

「あなたもその者と同じ事を言うのですね……弱いから悪い。……だったら、その命を寄越せ」

 澪は、颯に対する以上の殺気を放ち、ギンッと射るような視線を徳昂に向けた。ビリビリと体が痺れるような殺気。

「ひぃぃぃっ!」

 颯は先程の出来事を思い出し、その場で踞って震えた。
 徳昂も、ただ事ではない殺気を感じ体中の毛穴が開くようだった。

 ずいっと徳昂の顔に己の顔を近付け、「本来であれば直ぐにでも殺してやりたいところだが……。お前は歩澄様が助けた命。……だから殺さない。お前の命は歩澄様に守られている。それだけは忘れるな」と言った。

 澪は顔をひきつらせている徳昂から距離をとり、胸元に掌を当てた。とんっと軽く押した瞬間、何故か重心が崩れすとんっと腰を抜かした。恐怖で踞まる颯の隣に尻餅をついた。
 澪は、何も言わずそのまま背を向けて去っていった。

「……俺の命が歩澄様に守られているだと? くそっ!」

 徳昂は拳でだんっと床を叩き、歯を食い縛った。




 その日の宵、澪は甘味を持って歩澄の元を訪れていた。

「今日は握り飯ではないのか?」

 饅頭を持ってきた澪に、歩澄はふっと微笑む。

「……今日は違います」

「どうした、元気がないようだが」

「五平と琥太郎くんのことです。……徳昂様が許せません」

「昼間の事は聞いた。随分と暴れたようだな」

 歩澄は仕方のない奴だと眉を下げて笑う。

「まだ腹の虫が治まりません」

「……あの男も悪い奴ではない。馬鹿だがな。その件については私からもきつく言っておいた」

「……」

「澪……。ここはそういう場所でもある。弱いあやつらにも非がある」

「……歩澄様までそのようなことを言うのですね」

 澪は口をへの字に曲げて、歩澄から視線を逸らした。

「怒ってるのか?」

「怒ってません!」

「悪かった……澪」

 歩澄は顔を背けた澪の頬を左手で包み、唇を重ねた。歩澄の高尚な香が馨った。

「……恋仲でもないのに」

 澪が不服そうにそう言うと、歩澄はふっと頬を緩めて「今日は私の寝所で寝ていくか?」と尋ねた。
 澪はゆっくりと顔を横に振り「部屋に戻ります。おやすみなさい」と言って頬を包む歩澄の手を取り、畳の上に置いた。

「……明日から来客が続く。ゆっくり休め」

 瑛梓と梓月から、徳昂の家来達を一人で尽く打ち負かしたと聞いた。恐らく疲れも溜まっているのであろうと、歩澄は浮かない顔をしている澪の背中を見送った。
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