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赤髪の少女【18】

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「楊様はいつからここに?」

「そうだね、もう六年になるかな」

「それでもまだ六年なんですか……」

「歩澄が私の祖国にやって来た時だからね。驚いたよ。当時十八だった若者が指揮を取り、我が国との貿易を結ぼうと動いてたんだから」

「歩澄様が?」

「お前さんは何も知らないようだけど、歩澄は優秀な若者だよ。私もちょいと子供をからかうつもりでいたんだがね、全うな取引方法と経済の流れを流暢に説明し始めた。私が知る限り、あの若さであそこまで人を動かせる者はいない。完全に人の上に立つ器だよ」

「それで、楊様の祖国と潤銘郷とは契約を?」

「いや。そうは言っても歩澄は王ではないからね。たった一つ郷を統治したくらいじゃ国は動かないよ。それでも面白そうだから私はついてきたんだ。祖国は薬の取り扱いも厳しくて、粗相でもしようものなら玉を取られてしまうからね」

「玉?」
 
 澪は不思議そうに首を傾げるが、楊が己の股間を指差したことで声にならない声をあげ、茹でだこのように顔を赤くさせるはめになった。

「潤銘郷は富の郷だ。金は腐るほどある。しかし、物造りも薬の知識にも乏しい。それを金と権力で買う。私は嫌いではないよ。歩澄の場合、それを私利私欲のために使っているわけじゃない。その証しに城下の民達は皆楽しそうだろう?」

「……はい」

「四人の統主の中で誰が王になるか。お前さんは誰だと思う?」

「……わかりません。ですが、栄泰郷と洸烈郷は嫌です」

「同感だ。四人の統主の力は互角。何故そう言われているかわかるかい?」

「いえ……」

 王座争いが予期されていた頃から囁かれていたことだ。武力で言えば圧倒的に洸烈郷が有利である。しかし、それでも四人の力が同等だと言われている意味が澪にはわからなかった。

「まず、お前さんが嫌だと言った栄泰郷。横に長く存在する国の左隅に、西の海を潤銘郷と分けるようにして匠閃郷あるな?」
 
「はい」

「その匠閃郷の隣から始まって、潤銘郷、洸烈郷、翠穣郷が並ぶ上を通るようにして栄泰郷がある。わかるかい? 規模にして他の郷二つ分以上だ。当然人口は多い」

「そうですね」

「それにも関わらず、あの郷には貧富の差がほぼない」

 澪は、楊の言葉に眉を上げた。

「それがどういうことを意味するかわかるかね? 匠閃郷はどうだろうか。小さな郷であるにも関わらず、貧富の差が激しく飢え死にする村もある」

「仰る通りです……」

「栄泰郷の統主は無類の女好きで暢気者。それは事実だ。何も考えていないようにふらふらと城下を出歩く。しかしそれは表向きでね、あそこの統主は自らの足であの広い全ての村を回る。
 女探しの旅に出ているなどと揶揄されてはいるが、村の綻びを見つけては直ちに改革させる。故にどこの村も来客で賑わっており、経済の回りもいい。郷の規模を考えれば経済情勢は潤銘郷よりも上だ。それも今の統主に変わってから目に見えて変わった。僅か二年のことだ」

「そんな……」

 千依を駒のように使い、潤銘郷を陥れようとした八雲皇成。今でも千依の首と秀虎の顔、歩澄の涙を思い出すと怒りに震える。
 あの後、千依の首を持ち帰った歩澄と瑛梓は、忍びで城下に千依の墓を作った。温泉へ行くため城下に降りた際、墓に手を合わすことを許された澪は、そこで最後の言葉を伝えた。
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