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赤髪の少女【17】

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 瑛梓と梓月と別れた澪は、楊のところへ来ていた。

「楊様、おはようございます」

「おはよう。本日の薬だ」

 そう言って差し出されたのは五つの丸薬だった。澪が毒草を求めて倒れた日の翌日から、こうして毎日楊の元へ通っている。
 それは無計画に摂取したことで体内で変化し、牙を向いている毒を落ち着かせるためだった。

 澪は丸薬を受け取り、それらを水で流し込んだ。村にいる頃は生で草を噛るか、煎じて飲むかであった。どちらも苦く苦痛を伴う。しかし、丸薬であればそのまま飲み込んでしまえばいい。
 そんなことはわかっていたが、種類の多すぎる毒を丸薬にすれば大きくて飲めたものではない。澪が独自で作るには薬の知識が足りなさすぎた。それも楊の手にかかれば小さな丸薬五つで済んでしまうのだから不思議だ。

 あれ以来体の痺れも吐き気もなく過ごせている。楊の薬のおかげであることは間違いなかった。

「調子はどうだい?」

「とてもいいです」

「そう。それはよかった。もう少ししたら私も歩澄の所へ行く。……畑を漁るんじゃないよ」

 一度澪に毒草を採られている楊は、じっと澪を見つめて言った。

「も、もう勝手に採ったりしません! そのためにこうして毎日訪れているのですから」

「まあ、そうだね。もし、別の毒を口にしたらすぐに言うんだよ。また調整が必要だからね」

「はい。それより楊様……」

「ん?」

「ずっと気になってたんですが……」

「何だい?」

 澪は尋ねてもいいものかと躊躇いながら「楊様は歩澄様と対等にお話されていますが……」とそこまで言った。それに反応した楊は、何てことのないような顔をして「ああ」と頷いた。

「私は、他の家来と違って歩澄に仕えているわけではないからね」

「仕えていない?」

「そう。ここでは私は誰の命にも従っていない。歩澄は薬の知識を欲した。私は珍しい薬草や毒草を手に入れたかった。だから、歩澄とその家来を診る代わりに畑を与えてもらい、経費を好きに使わせてもらって各郷の薬草を集めた。それだけだ」

「では、対等な利害関係……」

「その通り」

「楊様は……その、歩澄様のことをどう思っているのですか?」

「どうって? 統主として? 一人の男として?」

「どちらもです」

「どうも思っちゃいないよ。利害関係だからね。私は、薬にしか興味がない。正直なところ、人の命にもね」

 無表情で言った楊の言葉に、澪の胸は一つドックンと大きく鳴った。

「人が生きようが死のうが私の知ったことではない。ただ、それが毒や薬によるものなら、とても興味深い」

「……私は?」

「興味深いよ。お前さんの体内には無数の毒がうじゃうじゃ住んでいるからね。お前さんのような人間は私も初めて見た。大体の人間はとっくに死んでいる。そんな死に損ないが、今後どこまで毒を自分のものにできるかとても楽しみだねぇ」

 そう言って楊は顎の髭を触りながら嬉しそうに笑った。

「し、死に損ない……」

 興味深いと言われながらも決していい意味で言われているわけではないことくらい澪にもわかる。澪は顔をひきつらせて楊を見つめた。

「だけど、潤銘郷統主としては生き延びてもらわなきゃ困るね」

「え?」

「歩澄が死んだらこの畑も、今まで集めた薬草達も手放さなきゃならなくなるかもしれないからなぁ。だから誰かが王になるなら、歩澄がなればいいとは思うよ。この自由な暮らしが気に入っていてね」

 楊はそう言いながら、薬草の整理を始めた。
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