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赤髪の少女【9】
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ぐっと力任せにその手を引けば、何の構えもしてない澪の体は容易に歩澄の腕の中に収まった。細身だと思っていた歩澄の体は、澪を包むには十分であった。
驚いて顔を上げた澪の顎を掴み、歩澄は唇を重ねた。後頭部を押し上げ、更に距離を縮める。
「んっ……」
澪の喉の奥から声にならない声が漏れ、驚きのあまり、両手で歩澄の胸を勢いよく押し退けた。
歩澄は、一度離れた体を引き寄せ、澪の着物の帯を解いた。
「やっ……」
するっと胸元が解放され、急いで押さえようと手を伸ばせば、気を取られている内に畳の上へと組敷かれてしまった。
するりと滑り込むように歩澄の手が澪の襟元から侵入した。
橙色の花がまるで梓月のようで、歩澄は見せつけるかのように澪の首筋に舌を這わせた。
「や、やめてくださっ……」
震える声と、頬を首筋を伝って歩澄の舌先まで流れた澪の涙。顔を上げれば大粒の涙を溢し、小さく震えていた。
歩澄は、毎日足繁く己の元に通う澪を見て、少なからず己に気のあるものだと思っていた。せっせと歩澄のために甘味を用意し、笑みを見せる。特別な感情があるものだと期待していた。
「……いやなのか?」
歩澄は手を止めて静かにそう尋ねた。
「こ、このようなことは……初めては好きな殿方がいいのです」
澪はまだ蒼のことを忘れられなかった。いつか会えるかもしれない。そう考えると、約束を破った挙げ句、他の男と枕を交わすなどということはとてもできないと思ったのだ。
「他に好きな男がいるのか?」
「……幼い頃より想っている方がおります」
歩澄の中に沸き上がる怒りは、急にふっと熱を冷ました。歩澄はゆっくり体を上げ、澪の襟元を直した。
「すまなかった。……もう、よい。行け」
歩澄はふいっと顔を背け、澪から間合いをとった。
「……歩澄様?」
「早く行け!」
歩澄に怒鳴られ、澪は逃げ出すようにしてその場を後にした。澪がいなくなった大広間で、歩澄は前髪をかきあげくしゃりと握る。
(あんな顔をさせるつもりはなかった……。幼い頃より想っている男がいただと?)
全て己の勘違いだったと気付き、歩澄はいたたまれない気持ちになった。
澪は、自室に戻る廊下で先程の歩澄のことを考えていた。蒼のことが頭を過り、罪悪感でいっぱいになってしまった。それ故、蒼に対する涙が自然と溢れたのだ。しかし、歩澄に触れられること自体が嫌なわけではなかった。
(歩澄様……切なそうな顔してたな。よくわからないけれど、何か傷付けてしまったのかもしれない)
澪には、歩澄が他人の気持ちも考えずにあのようなことをするとは思えなかった。明日もう一度甘味を持って謝りに行こう。そう思ったのだ。
翌日の宵、澪は覚悟を決めて甘味を持って出掛けた。大きく深呼吸をし、煩い鼓動を落ち着かせる。
(大丈夫、平常心……)
そう己に言い聞かせて大広間の前まで来た。当然梓月に貰った髪飾りはしてこなかった。
声をかけると、驚いた様子の歩澄。まさか澪が昨日の今日でこの場を訪れるなどとは思ってもみなかったのだ。
澪を通すと、先に謝ったのは澪だった。
「昨日は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
「……お前が謝ることではない。私の方こそすまないと思っていた」
歩澄は、もう二度と澪がこの場を訪れないかもしれぬ。そう思っていた。しかし日をおかずに訪れた澪の顔を見て、何故か心が弾むようだった。
他に想い人がいようとも、梓月の髪飾りは受け取ったのだ。それは、梓月とも恋仲でないことを意味している。髪飾りに特別な意味などなかった。そう考えると、歩澄の心も少しだけ穏やかになった。
しかし、嬉しそうに梓月に贈られた髪飾りを身に付けているのは癪だった。あの歓喜に満ちた澪の顔を見るに、装飾品には興味があるのであろう。遠慮して二度と髪飾りをつけようとしないやもしれぬ。そう考えた歩澄は、別の髪飾りを贈ろうと本日早朝より職人に作らせていた。
驚いて顔を上げた澪の顎を掴み、歩澄は唇を重ねた。後頭部を押し上げ、更に距離を縮める。
「んっ……」
澪の喉の奥から声にならない声が漏れ、驚きのあまり、両手で歩澄の胸を勢いよく押し退けた。
歩澄は、一度離れた体を引き寄せ、澪の着物の帯を解いた。
「やっ……」
するっと胸元が解放され、急いで押さえようと手を伸ばせば、気を取られている内に畳の上へと組敷かれてしまった。
するりと滑り込むように歩澄の手が澪の襟元から侵入した。
橙色の花がまるで梓月のようで、歩澄は見せつけるかのように澪の首筋に舌を這わせた。
「や、やめてくださっ……」
震える声と、頬を首筋を伝って歩澄の舌先まで流れた澪の涙。顔を上げれば大粒の涙を溢し、小さく震えていた。
歩澄は、毎日足繁く己の元に通う澪を見て、少なからず己に気のあるものだと思っていた。せっせと歩澄のために甘味を用意し、笑みを見せる。特別な感情があるものだと期待していた。
「……いやなのか?」
歩澄は手を止めて静かにそう尋ねた。
「こ、このようなことは……初めては好きな殿方がいいのです」
澪はまだ蒼のことを忘れられなかった。いつか会えるかもしれない。そう考えると、約束を破った挙げ句、他の男と枕を交わすなどということはとてもできないと思ったのだ。
「他に好きな男がいるのか?」
「……幼い頃より想っている方がおります」
歩澄の中に沸き上がる怒りは、急にふっと熱を冷ました。歩澄はゆっくり体を上げ、澪の襟元を直した。
「すまなかった。……もう、よい。行け」
歩澄はふいっと顔を背け、澪から間合いをとった。
「……歩澄様?」
「早く行け!」
歩澄に怒鳴られ、澪は逃げ出すようにしてその場を後にした。澪がいなくなった大広間で、歩澄は前髪をかきあげくしゃりと握る。
(あんな顔をさせるつもりはなかった……。幼い頃より想っている男がいただと?)
全て己の勘違いだったと気付き、歩澄はいたたまれない気持ちになった。
澪は、自室に戻る廊下で先程の歩澄のことを考えていた。蒼のことが頭を過り、罪悪感でいっぱいになってしまった。それ故、蒼に対する涙が自然と溢れたのだ。しかし、歩澄に触れられること自体が嫌なわけではなかった。
(歩澄様……切なそうな顔してたな。よくわからないけれど、何か傷付けてしまったのかもしれない)
澪には、歩澄が他人の気持ちも考えずにあのようなことをするとは思えなかった。明日もう一度甘味を持って謝りに行こう。そう思ったのだ。
翌日の宵、澪は覚悟を決めて甘味を持って出掛けた。大きく深呼吸をし、煩い鼓動を落ち着かせる。
(大丈夫、平常心……)
そう己に言い聞かせて大広間の前まで来た。当然梓月に貰った髪飾りはしてこなかった。
声をかけると、驚いた様子の歩澄。まさか澪が昨日の今日でこの場を訪れるなどとは思ってもみなかったのだ。
澪を通すと、先に謝ったのは澪だった。
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「……お前が謝ることではない。私の方こそすまないと思っていた」
歩澄は、もう二度と澪がこの場を訪れないかもしれぬ。そう思っていた。しかし日をおかずに訪れた澪の顔を見て、何故か心が弾むようだった。
他に想い人がいようとも、梓月の髪飾りは受け取ったのだ。それは、梓月とも恋仲でないことを意味している。髪飾りに特別な意味などなかった。そう考えると、歩澄の心も少しだけ穏やかになった。
しかし、嬉しそうに梓月に贈られた髪飾りを身に付けているのは癪だった。あの歓喜に満ちた澪の顔を見るに、装飾品には興味があるのであろう。遠慮して二度と髪飾りをつけようとしないやもしれぬ。そう考えた歩澄は、別の髪飾りを贈ろうと本日早朝より職人に作らせていた。
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