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赤髪の少女【4】

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「どういうことか説明してもらうぞ」

 そう言った歩澄の顔は、勃然としていた。澪はとうとう諦めて、「……私の体は無数の毒に侵されているのです。幼い頃より毒を飲まされて育ちました。それ故、それを続けないと体内で新な毒素が育ち、死に至ります。ですから、私を殺すのであれば毒を与えずどこかに閉じ込めてそのまま放って置けばよろしいのです」と答えた。

 歩澄は、長いため息を付き「それは餓死でも同じ事だ。楊が言うには、計られたことではないと。それはどういうことだ」と問い詰めた。

 澪は黙ったまま着物の帯を解いた。

「な、何をっ……」

 三人は動揺を隠しきれず、目を泳がせた。澪はそのまま背を向け、髪を左に寄せて前に垂らした。それからスルリと着物を落とし、背中を露にさせた。
 そこにあるのは右肩から左腰にかけて斬られた大きな傷と、それを囲むようにしてつけられた無数の細かい傷。それらは背中を埋めつくし、まるで虫でも這っているかのようだった。

「な……」
むごい……」
「何故このような……」

 歩澄、梓月、瑛梓とそれぞれ言葉を並べ、怒りとは違った感情が渦巻いた。澪はそっと着物を整え、帯を締め直すと実母からの仕打ちについて語った。かねてより梓月が気になっていた右腕も袖を捲って全て見せた。
 腕は内側が削ぎ落とされており、それを覆うかのように回りの肉が盛り上がっている。傷だらけの皮膚が無理にくっついたがためにいくつもの皺を作っていた。

「侍女には枯木のようだと陰口を叩かれておりました」

 三人は、言葉を失った。澪はそのまま話を続けた。十二の年に村へ逃げたこと、師匠との出会い。それから二人の死。
 全ての経緯を知って、三人はようやく澪が匠閃城を襲撃したことを恨んでいないと言った訳が理解できた。

「何故あの場にお前がいた?」

 歩澄は、そればかりは解せないと澪の目をじっと見つめた。
 澪はすっかり観念したのか「神室軍が匠閃城を襲撃するよう仕向けたのは私だからです」と答えた。

 三人の顔はみるみる内に鬼の形相へと変わっていく。

「あの、怒っていますか?」

 澪は掛布を口元まで持っていき、いつぞやの琥太郎の如く、身を縮めた。

「当然だ! どういうことか説明をしろ!」

 歩澄はくわっと顔を歪ませて声を張った。普段冷静な歩澄がこのように取り乱すのは珍しいと思いながら、ことの経緯を話した。

 九重と勧玄が殺され、その後村人達に世話になった澪。ようやく活気を取り戻した後、一度匠閃城に戻ったのだった。
 そこで見た景色は、幼い頃とは違った。使用人は皆みすぼらしい格好をしており、ようやく見つけた統主は自室で一人悲壮感を漂わせていた。
 まず正室の伽代が精神を蝕まれ、癇癪を起こすようになった。統主にすがり、涙を流し、ただただ傍においてくれと懇願した。見るに堪えないその姿は憲明に恐怖をも感じさせた。

 統主が伽代を相手にしている間に、元々良家出身の側室、琴が好き勝手に贅沢をし始めたのだった。民が納めた年貢を金品に変え、潤銘郷から商人を呼んでは碧空石を買い漁る日々。
 統主が何を言おうが聞く耳をもたず、そんな威厳をなくした統主についていけず家来も離れていった。

 正室付きの家来達は、伽代の癇癪を止めるため、血眼になって澪を探した。澪さえ差し出せばおとなしくなる。そう考えたのだ。
 澪が行くべき場所といえば九重の所しかなかった。澪が水汲みに行っている間に九重の家へと出向き、そこで澪の着物を見つけた。それは幼い頃姿を消した時のものであった。
 その着物には、匠閃郷の郷紋が刺繍されてあったのだ。
 それでも澪を匿おうとする二人を、家臣達は斬りつけたのであった。

 城内は既にそんな地獄のような状態だった。変わり果てた皆の姿を見て絶句し、澪はもはや統主への期待は捨てた。
 この統主に匠閃郷を任せておけば貧困が進み、民は皆死ぬ。郷が滅び、他の郷に侵略されていく。それはもうすぐ目の前にあった。

 澪はその危機を脱するべく考えた。匠閃郷の統主が生きている限り、この郷は変わらない。匠閃城を滅ぼさねばならないと。しかし、澪が自ら手を下せば反逆者となってしまう。そこで、他郷統主に襲撃させようと考えた。
 匠閃城を滅ぼしたとして、民には手を出さないであろう。民からの信用を失えば、王への道は閉ざされるのだから。澪はそう確信していた。
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