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毒草事件【14】
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「澪……ちょっといいか?」
隣にしゃがみ、耳打ちをする五平。
「どうかしたの?」
「いいから。来てくれ」
そう言われて腰を上げる。隣にいた琥太郎に「琥太郎くん、宴が始まったら先に食べてていいからね」と声をかけた。
こちら側の家来にまで膳が運ばれたということは、おそらく直に宴が始まるだろう。
徳昂は歩澄に夢中で話しかけており、澪の方を見向きもしなかった。
各々の席に膳が運ばれているため、先に始まっても問題はないだろう。そう判断した澪は、五平に続いて部屋を出た。
「どうしたの?」
「……調理場から毒が含まれた花が見つかった」
「そう」
澪は驚かなかった。杓牙草の時とてぞんざいな扱いをしていた徳昂のことだ。今回も毒を盛り込んだことに満足して後片付けを忘れたのだろう。
なんともお粗末である。
「……お前じゃないよな?」
「は?」
澪は、五平の言葉に耳を疑った。
「この事はまだ歩澄様には報告していない。俺は……その、お前のことをそんなに悪い奴じゃないと思っている。でもな、もし恨みから歩澄様を殺すつもりでいるなら……」
「馬鹿じゃないの?」
「なっ……」
澪は呆れたように大きく息をついた。まさか自分が疑われようとは思ってもみなかったからだ。
(迂闊だった……。毒の使い方によってはこうして私を罪人に仕立て上げることも可能だということだ。覚えておかないと……)
澪は五平の袖を掴み、「いい? その毒は私を殺すためのものよ」と小声で言った。
「え!?」
「ここへ来たばかりの時、徳昂という男に毒を盛られた」
「……本当か?」
「訳あって、私には少量の毒なら効かない。けれど、危うく殺されかけた」
「……今回のはどうしてお前を狙ったって言いきれる?」
「私の膳から毒の臭いがした。調理場にあったのは水抄菊という花ではない?」
「……そうだ。でもそれは……」
五平はごくりと唾を飲む。澪が用意した可能性もあると五平は言いたかったが、それを口にするのは気が引けた。
「水抄菊は綺麗な水辺にしか咲かない。匠閃郷の川の水はどこも濁っていて、あの花は咲けない。私がいた村では咲いていることもあったけれど、数日間この城に留まっている私には、生花を持ち込むのは不可能」
「それは……」
「ともすれば、潤銘郷の綺麗な水辺を知っている者。土地勘があって城下に自由に出入りができる者」
「……そんなの役のある重臣なら誰でも可能だ。それに命令があれば、俺達だって……」
「あの男はまだ私を殺すことを諦めていない。もしかしたら、統主の命令かもしれない」
「それはないと思うぞ……。瑛梓様は、歩澄様を信頼しておられるし……」
「五平は、歩澄様と直接話をしたことがあるの?」
「……それは、殆どないけど……」
五平はそう言って目を泳がせた。下っ端であり、瑛梓の家来である五平が直接歩澄と接触するのは不可能に近い。
瑛梓からの情報しか五平にはないのだ。
「それなら歩澄様の考えも、五平にはわからないじゃない。私はまだここの統主を信用したわけじゃない。私とて、瑛梓様や梓月様は実際に接してみて、感謝していることもある。けれど、歩澄様は違う。城で私を殺そうとした男よ」
「……ああ」
そこまで言われてしまっては、五平も返す言葉が見つからなかった。澪の家族を殺し、城に仕えていた者まで皆殺しにしたのだ。澪がこうして五平と話していることとて、本来であれば異様な光景であることは言うまでもない。
「とにかく私は戻る。あの毒をなんとかしないと。五平は、何も知らない振りをして歩澄様に報告するといい。知っていて黙っていたらあんたが疑われる」
「……わかった」
強く頷いた五平を視線を合わせ、澪も同じように頷く。
障子を開けて中に入れば、皆賑わいながら食事を始めていた。
隣にしゃがみ、耳打ちをする五平。
「どうかしたの?」
「いいから。来てくれ」
そう言われて腰を上げる。隣にいた琥太郎に「琥太郎くん、宴が始まったら先に食べてていいからね」と声をかけた。
こちら側の家来にまで膳が運ばれたということは、おそらく直に宴が始まるだろう。
徳昂は歩澄に夢中で話しかけており、澪の方を見向きもしなかった。
各々の席に膳が運ばれているため、先に始まっても問題はないだろう。そう判断した澪は、五平に続いて部屋を出た。
「どうしたの?」
「……調理場から毒が含まれた花が見つかった」
「そう」
澪は驚かなかった。杓牙草の時とてぞんざいな扱いをしていた徳昂のことだ。今回も毒を盛り込んだことに満足して後片付けを忘れたのだろう。
なんともお粗末である。
「……お前じゃないよな?」
「は?」
澪は、五平の言葉に耳を疑った。
「この事はまだ歩澄様には報告していない。俺は……その、お前のことをそんなに悪い奴じゃないと思っている。でもな、もし恨みから歩澄様を殺すつもりでいるなら……」
「馬鹿じゃないの?」
「なっ……」
澪は呆れたように大きく息をついた。まさか自分が疑われようとは思ってもみなかったからだ。
(迂闊だった……。毒の使い方によってはこうして私を罪人に仕立て上げることも可能だということだ。覚えておかないと……)
澪は五平の袖を掴み、「いい? その毒は私を殺すためのものよ」と小声で言った。
「え!?」
「ここへ来たばかりの時、徳昂という男に毒を盛られた」
「……本当か?」
「訳あって、私には少量の毒なら効かない。けれど、危うく殺されかけた」
「……今回のはどうしてお前を狙ったって言いきれる?」
「私の膳から毒の臭いがした。調理場にあったのは水抄菊という花ではない?」
「……そうだ。でもそれは……」
五平はごくりと唾を飲む。澪が用意した可能性もあると五平は言いたかったが、それを口にするのは気が引けた。
「水抄菊は綺麗な水辺にしか咲かない。匠閃郷の川の水はどこも濁っていて、あの花は咲けない。私がいた村では咲いていることもあったけれど、数日間この城に留まっている私には、生花を持ち込むのは不可能」
「それは……」
「ともすれば、潤銘郷の綺麗な水辺を知っている者。土地勘があって城下に自由に出入りができる者」
「……そんなの役のある重臣なら誰でも可能だ。それに命令があれば、俺達だって……」
「あの男はまだ私を殺すことを諦めていない。もしかしたら、統主の命令かもしれない」
「それはないと思うぞ……。瑛梓様は、歩澄様を信頼しておられるし……」
「五平は、歩澄様と直接話をしたことがあるの?」
「……それは、殆どないけど……」
五平はそう言って目を泳がせた。下っ端であり、瑛梓の家来である五平が直接歩澄と接触するのは不可能に近い。
瑛梓からの情報しか五平にはないのだ。
「それなら歩澄様の考えも、五平にはわからないじゃない。私はまだここの統主を信用したわけじゃない。私とて、瑛梓様や梓月様は実際に接してみて、感謝していることもある。けれど、歩澄様は違う。城で私を殺そうとした男よ」
「……ああ」
そこまで言われてしまっては、五平も返す言葉が見つからなかった。澪の家族を殺し、城に仕えていた者まで皆殺しにしたのだ。澪がこうして五平と話していることとて、本来であれば異様な光景であることは言うまでもない。
「とにかく私は戻る。あの毒をなんとかしないと。五平は、何も知らない振りをして歩澄様に報告するといい。知っていて黙っていたらあんたが疑われる」
「……わかった」
強く頷いた五平を視線を合わせ、澪も同じように頷く。
障子を開けて中に入れば、皆賑わいながら食事を始めていた。
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