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毒草事件【4】
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ーー
澪は、廊下を出て人気のないところまで行くと、縁側から外に向かって自らの腹を殴った。その衝撃で、先程飲み込んだ杓牙草を全て吐き出した。
そのまま縁側に座り込み、帯の中に忍ばせてあった巾着の中から丸薬を取り出す。それを口に入れ噛み砕いた。
飲み込んでから、一度その場に踞る。
いくら毒が効かないとはいえ、致死量の数倍の量を飲まされたのだ。さすがに量が多すぎると澪も危機を感じていた。
杓牙草の毒の回りは早い。一杯目の茶の時、既に通常の人間の致死量を飲んだ。その程度の毒であれば、なんてことはない。しかし、二杯目の茶を用意している間に先に飲んだ毒は体内に吸収されている。
二杯目の茶を吐き出したが、どれ程の毒が体内に残っているかなどわからない。
解毒薬を飲んだが、これにより、元々体内に蓄えられている毒も一時解毒を始める。その時に、毒同士の相性が悪ければ待っているのは死だ。
それでも、これだけの量の杓牙草を解毒しないわけにはいかない。
「はっ……」
指先の感覚が痺れてきていた。息苦しさも出てきている。解毒は間に合わなかったか……。
澪は目が霞んでいく中、朧気な蒼の笑顔を思い出す。はっきりとはわからない顔。
(まだ死ねないのに……。勧玄様、そちらに私が行ったらちゃんと追い返してね。私はまだ何一つ約束を守れていないから)
そう心の中で呟き、意識を手放した。
そこへ丁度歩澄の元へ伺おうとしていた家臣が通りかかった。
白金色の髪を揺らして歩く梓月は、歩みを止めた。
「澪? 姫様?」
梓月は首を傾げて、しゃがみ込む。澪は、じっとりと汗をかいて、横たわっていた。
梓月は、自らの口元に手を持ってく。人差し指を唇へ押しあてながら暫く澪を見つめた。
「うーん、毒? かな?」
微かに香る臭いと、症状から毒を盛られたのだと察した梓月。縁側から外を覗けば、吐き出された毒草を見つけた。
匠閃郷の政について調べるため、匠閃郷に残った梓月は、他の軍勢から遅れて城へ戻った。辺りが暗くなってきており、郷人達も寝入る時間へと突入するため、調査にも限界がみえた。
明日以降改めて匠閃郷へ伺おうと城へ戻ってくると、家来である琥太郎が匠閃城から連れ帰った澪に襲撃されたと聞いたのだ。
こんなことなら、無理にでも城で待っているよう止めておけばよかったと血相を変えて琥太郎の元に駆け付けた。
あの徳昂と激戦を繰り広げた女だと聞いていたため、どれ程酷い目に遭ったのかと慌てて行けば、琥太郎は「梓月様! おかえりなさいませ!」と笑顔で出迎えた。
「……琥太郎。襲撃を受けたと聞いたが……」
呆気にとられた梓月は立ち尽くしたまま、嬉しそうにしている琥太郎に尋ねる。
「はい。どうやら殴られてしまったようです」
「ようですって……大丈夫なのか?」
「はい。その姫様がここまで運んでくれまして、目が覚めるまで傍にいてくれましたので」
「……ん?」
梓月には全く情景が見えていなかった。襲撃した筈なのに、琥太郎を潤銘郷まで連れてきただけでなく、部屋まで運んで介抱したとはどういうことだろうかと頭を悩ます。
「姫様は、馬が欲しかっただけで僕を攻撃するつもりはなかったようです」
「……そう。それで、お前は無事だと?」
「はい。五平さんも一緒にいまして。先程まで三人で仲良くお話をしていました」
何故か楽しそうに話す琥太郎に、ふっと体に力が抜ける。その場に座り込んだ梓月に「梓月様!? ご容体が悪いのですか!?」と琥太郎が駆け寄る。
「いいや。悪くないよ。心配していたんだ、琥太郎のことを」
「し、梓月様……」
琥太郎は、感激のあまり瞳を揺らし、涙を浮かべた。
澪は、廊下を出て人気のないところまで行くと、縁側から外に向かって自らの腹を殴った。その衝撃で、先程飲み込んだ杓牙草を全て吐き出した。
そのまま縁側に座り込み、帯の中に忍ばせてあった巾着の中から丸薬を取り出す。それを口に入れ噛み砕いた。
飲み込んでから、一度その場に踞る。
いくら毒が効かないとはいえ、致死量の数倍の量を飲まされたのだ。さすがに量が多すぎると澪も危機を感じていた。
杓牙草の毒の回りは早い。一杯目の茶の時、既に通常の人間の致死量を飲んだ。その程度の毒であれば、なんてことはない。しかし、二杯目の茶を用意している間に先に飲んだ毒は体内に吸収されている。
二杯目の茶を吐き出したが、どれ程の毒が体内に残っているかなどわからない。
解毒薬を飲んだが、これにより、元々体内に蓄えられている毒も一時解毒を始める。その時に、毒同士の相性が悪ければ待っているのは死だ。
それでも、これだけの量の杓牙草を解毒しないわけにはいかない。
「はっ……」
指先の感覚が痺れてきていた。息苦しさも出てきている。解毒は間に合わなかったか……。
澪は目が霞んでいく中、朧気な蒼の笑顔を思い出す。はっきりとはわからない顔。
(まだ死ねないのに……。勧玄様、そちらに私が行ったらちゃんと追い返してね。私はまだ何一つ約束を守れていないから)
そう心の中で呟き、意識を手放した。
そこへ丁度歩澄の元へ伺おうとしていた家臣が通りかかった。
白金色の髪を揺らして歩く梓月は、歩みを止めた。
「澪? 姫様?」
梓月は首を傾げて、しゃがみ込む。澪は、じっとりと汗をかいて、横たわっていた。
梓月は、自らの口元に手を持ってく。人差し指を唇へ押しあてながら暫く澪を見つめた。
「うーん、毒? かな?」
微かに香る臭いと、症状から毒を盛られたのだと察した梓月。縁側から外を覗けば、吐き出された毒草を見つけた。
匠閃郷の政について調べるため、匠閃郷に残った梓月は、他の軍勢から遅れて城へ戻った。辺りが暗くなってきており、郷人達も寝入る時間へと突入するため、調査にも限界がみえた。
明日以降改めて匠閃郷へ伺おうと城へ戻ってくると、家来である琥太郎が匠閃城から連れ帰った澪に襲撃されたと聞いたのだ。
こんなことなら、無理にでも城で待っているよう止めておけばよかったと血相を変えて琥太郎の元に駆け付けた。
あの徳昂と激戦を繰り広げた女だと聞いていたため、どれ程酷い目に遭ったのかと慌てて行けば、琥太郎は「梓月様! おかえりなさいませ!」と笑顔で出迎えた。
「……琥太郎。襲撃を受けたと聞いたが……」
呆気にとられた梓月は立ち尽くしたまま、嬉しそうにしている琥太郎に尋ねる。
「はい。どうやら殴られてしまったようです」
「ようですって……大丈夫なのか?」
「はい。その姫様がここまで運んでくれまして、目が覚めるまで傍にいてくれましたので」
「……ん?」
梓月には全く情景が見えていなかった。襲撃した筈なのに、琥太郎を潤銘郷まで連れてきただけでなく、部屋まで運んで介抱したとはどういうことだろうかと頭を悩ます。
「姫様は、馬が欲しかっただけで僕を攻撃するつもりはなかったようです」
「……そう。それで、お前は無事だと?」
「はい。五平さんも一緒にいまして。先程まで三人で仲良くお話をしていました」
何故か楽しそうに話す琥太郎に、ふっと体に力が抜ける。その場に座り込んだ梓月に「梓月様!? ご容体が悪いのですか!?」と琥太郎が駆け寄る。
「いいや。悪くないよ。心配していたんだ、琥太郎のことを」
「し、梓月様……」
琥太郎は、感激のあまり瞳を揺らし、涙を浮かべた。
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