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風雲児
【20】
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2月20日 木曜日
テレビから流れる音に耳を傾ける。
「寒い、寒い」
「こんな日は温かいココアでも飲みたいですね」
「じゃあ、かなと一緒にココアする?」
声に反応して顔を上げれば、画面いっぱいに奏ちゃん。
「あ……」
思わず洗い物をしていた水を止めて、テレビに駆け寄った。
「ミルクたっぷり、贅沢かな?」
ショートカットの奏ちゃんがふんわり笑顔で首を傾げる。さすがモデルさん。表情作りが抜群です。更に、マグカップを持つ手が綺麗なこと。
初めてCMの契約が決まったと言っていたものだった。実際テレビで流れているのを見たのは初めてだ。今後、たくさんのCMに出ることになるんだろうなと考えると嬉しくなる。
あまねくんと暮らすようになってから、あまりテレビを見なくなった。それは、彼との会話が楽しくて、他の暇潰しが必要ないから。
一緒に映画を観るのも好きだけれど、あまねくんと会話をしているとあっという間に就寝時間がくるのだ。
これからはあまねくんといる時も、テレビをつけてみようと思えた。
「可愛いなぁ……」
ずっと見ていられる奏ちゃん。こんなに綺麗で可愛い子が私の妹になっただなんて未だに信じられない。けれど、本人は憎まれ口ばかりでたまに可愛気がないため、現実に引き戻されるのだ。
そんな中、スマホのバイブレーションが鳴り響く。長く鳴っているため、おそらく電話だ。
午前7時56分、こんな時間にかけてくるのは……ん? こんな朝っぱらから誰がかけてくるというのか。旦那さんが忘れ物でもしたかしら。なんて思いながらスマホの画面を見る。
そこには〔安藤茉紀〕の文字。私は飛び上がってスマホを手放しそうになった。先月、茉紀の旦那さんに会い、ハイジさんと話をしたばかりだ。
茉紀の旦那さんが不倫をしていて、子供に会わせてもらえなくて壮絶な泥沼の最中《さなか》。
ハイジさんは、私に全てを話したと茉紀に言ったのだろうか。私はどこまで知っている体で話したらいいのか。
あんなに茉紀の事が心配で、首を突っ込みたくて仕方がなかった私。勝手に話してくれるまで待っていろとあまねくん、律くん、ハイジさんに言われて散々放っておいた。
その環境に慣れてしまったら、今電話に出て何を話したらいいのか全くわからなくなった。なぜ、このタイミングで電話が来たのか。何を話すつもりなのか。
いや、何でもない世間話をするつもりなのかもしれない。何も旦那さんのことと決まったわけじゃない。ハイジさんのことかもしれないし、私とあまねくんのことかもしれない。それとも、奏ちゃんがCMに出てるよ! なんていう電話かもしれない。
……無視しようか。いやいや、詮索するなと言われて散々ちょびちょびしてたくせに、ここで無視するのはない。
いや、でも……。
考えている間にも、電話は鳴り続ける。電話が切れたところでどうせかけ直さなければならない。それならと、通話ボタンをスライドさせた。
「……もしもし」
そっと出て見る。
「もしもし、まどか?」
「うん、どうしただ? こんな朝早くに」
「今、子供っち保育園に送ってきただよ。今から仕事でさ」
「あ、復帰したんだ?」
暫く連絡をとっていなかったから、育休を明けたことすら知らずにいた。
私は、途中になっていた洗い物をそのままに、リビングのソファへと腰かけた。
「そうそう。だもんで時間ないだけんさ、あんた今日夜空いてる?」
「また急に……」
「どうせあまねと2人だから暇だら?」
「……暇だよ、どうせ」
暇じゃないっちゃ、ないだよ! そう心の中で叫ぶが、散々自分が悩んでいた時には、朝っぱらから押し掛けたこともあったのだ。
私は、案外元気そうな声に安堵しながら、本日の夜は茉紀と食事に行く約束をした。
その旨をあまねくんに報告し、あまねくんもそれなら先輩と食事に行くとのことだった。
私は、夜の待ち合わせをびくびくしながら待つことになった。
テレビから流れる音に耳を傾ける。
「寒い、寒い」
「こんな日は温かいココアでも飲みたいですね」
「じゃあ、かなと一緒にココアする?」
声に反応して顔を上げれば、画面いっぱいに奏ちゃん。
「あ……」
思わず洗い物をしていた水を止めて、テレビに駆け寄った。
「ミルクたっぷり、贅沢かな?」
ショートカットの奏ちゃんがふんわり笑顔で首を傾げる。さすがモデルさん。表情作りが抜群です。更に、マグカップを持つ手が綺麗なこと。
初めてCMの契約が決まったと言っていたものだった。実際テレビで流れているのを見たのは初めてだ。今後、たくさんのCMに出ることになるんだろうなと考えると嬉しくなる。
あまねくんと暮らすようになってから、あまりテレビを見なくなった。それは、彼との会話が楽しくて、他の暇潰しが必要ないから。
一緒に映画を観るのも好きだけれど、あまねくんと会話をしているとあっという間に就寝時間がくるのだ。
これからはあまねくんといる時も、テレビをつけてみようと思えた。
「可愛いなぁ……」
ずっと見ていられる奏ちゃん。こんなに綺麗で可愛い子が私の妹になっただなんて未だに信じられない。けれど、本人は憎まれ口ばかりでたまに可愛気がないため、現実に引き戻されるのだ。
そんな中、スマホのバイブレーションが鳴り響く。長く鳴っているため、おそらく電話だ。
午前7時56分、こんな時間にかけてくるのは……ん? こんな朝っぱらから誰がかけてくるというのか。旦那さんが忘れ物でもしたかしら。なんて思いながらスマホの画面を見る。
そこには〔安藤茉紀〕の文字。私は飛び上がってスマホを手放しそうになった。先月、茉紀の旦那さんに会い、ハイジさんと話をしたばかりだ。
茉紀の旦那さんが不倫をしていて、子供に会わせてもらえなくて壮絶な泥沼の最中《さなか》。
ハイジさんは、私に全てを話したと茉紀に言ったのだろうか。私はどこまで知っている体で話したらいいのか。
あんなに茉紀の事が心配で、首を突っ込みたくて仕方がなかった私。勝手に話してくれるまで待っていろとあまねくん、律くん、ハイジさんに言われて散々放っておいた。
その環境に慣れてしまったら、今電話に出て何を話したらいいのか全くわからなくなった。なぜ、このタイミングで電話が来たのか。何を話すつもりなのか。
いや、何でもない世間話をするつもりなのかもしれない。何も旦那さんのことと決まったわけじゃない。ハイジさんのことかもしれないし、私とあまねくんのことかもしれない。それとも、奏ちゃんがCMに出てるよ! なんていう電話かもしれない。
……無視しようか。いやいや、詮索するなと言われて散々ちょびちょびしてたくせに、ここで無視するのはない。
いや、でも……。
考えている間にも、電話は鳴り続ける。電話が切れたところでどうせかけ直さなければならない。それならと、通話ボタンをスライドさせた。
「……もしもし」
そっと出て見る。
「もしもし、まどか?」
「うん、どうしただ? こんな朝早くに」
「今、子供っち保育園に送ってきただよ。今から仕事でさ」
「あ、復帰したんだ?」
暫く連絡をとっていなかったから、育休を明けたことすら知らずにいた。
私は、途中になっていた洗い物をそのままに、リビングのソファへと腰かけた。
「そうそう。だもんで時間ないだけんさ、あんた今日夜空いてる?」
「また急に……」
「どうせあまねと2人だから暇だら?」
「……暇だよ、どうせ」
暇じゃないっちゃ、ないだよ! そう心の中で叫ぶが、散々自分が悩んでいた時には、朝っぱらから押し掛けたこともあったのだ。
私は、案外元気そうな声に安堵しながら、本日の夜は茉紀と食事に行く約束をした。
その旨をあまねくんに報告し、あまねくんもそれなら先輩と食事に行くとのことだった。
私は、夜の待ち合わせをびくびくしながら待つことになった。
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