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こんにちは赤ちゃん
【21】
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「ああ、そうだね。死んだよ」
「……そんな簡単に」
「簡単じゃない。毎日一緒にいた。たった2ヶ月」
「2ヶ月?」
「そう。忙しい父親に遠慮して体調悪いのを黙ってたみたいだね。母親は再婚相手だったようだし。いよいよ具合が悪くなって入院したらもう末期だった」
「……癌かなにかですか?」
「うん。恐らく白血病」
「恐らく?」
「病名は聞かなかった。聞いたところで助からないことはわかってたし。別に何が原因かなんて興味なかったし」
「そう……ですか」
「俺はね、あの子となら結婚してもいいかなって思えたんだよ。散々酷いこともしたけどね。でも、無理だった。死んだら何もできない。その先はないんだよ。だから、結婚して子供ができてなんて俺にとっては羨ましい意外のなにものでもない。
10年も追いかけてようやくまどかちゃんを手に入れたあまねくんが羨ましくてしょうがないんだ」
「……ハイジさん」
胸の中でとくんと1つ音がした。私にとって今ある幸せは、この人にとっては維持できなかったもの。そう考えると、何だかとても切なくなった。
「それから茉紀ちゃんにとっても」
「え?」
「君達は特にお互い愛し合ってるからね。茉紀ちゃんはほとんどずっと自分の片想いだった気がするって言ってた。結婚して子供がいても、埋まらないものがあるって思うと俺も心苦しいよ。だから余計に言いたくなかったのかもね。茉紀ちゃん自身も気付かないような嫉妬もあるんじゃないかな」
「嫉妬? 茉紀がですか?」
「だって、あまねくんに凄く愛されてる実感あるでしょ?」
「……はい」
「相手にこんなに想ってるって伝えることって難しくない? 上手いこと伝わらなくてすれ違うことの方が多い」
私とあまねくんもそんな時があった。勝手にあまねくんならわかってくれていると私が思っていたから。
「それがお互いに実感できるのってどの夫婦にでもあるものじゃないと俺は思う。だからこそ、俺は茉紀ちゃんの旦那のことは許せないよ。そこまで尽くしてくれる妻がいながら家事も育児も手伝わずに不倫するなんてさ。一度失ってみたらいいのにって思わずにはいられないね」
「……だからハイジさんはずっと私達のことを応援してくれたんですね」
「まあね。あと、あまねくんがしつこいからね。あんなにまどかちゃんのことが好きだって言われたら応援しないわけにもいかないでしょ」
ハイジさんはおかしそうに笑っている。彼は、私の知らないあまねくんをたくさん知ってるんだろうな。そう思うと少し妬けた。
「……そんな簡単に」
「簡単じゃない。毎日一緒にいた。たった2ヶ月」
「2ヶ月?」
「そう。忙しい父親に遠慮して体調悪いのを黙ってたみたいだね。母親は再婚相手だったようだし。いよいよ具合が悪くなって入院したらもう末期だった」
「……癌かなにかですか?」
「うん。恐らく白血病」
「恐らく?」
「病名は聞かなかった。聞いたところで助からないことはわかってたし。別に何が原因かなんて興味なかったし」
「そう……ですか」
「俺はね、あの子となら結婚してもいいかなって思えたんだよ。散々酷いこともしたけどね。でも、無理だった。死んだら何もできない。その先はないんだよ。だから、結婚して子供ができてなんて俺にとっては羨ましい意外のなにものでもない。
10年も追いかけてようやくまどかちゃんを手に入れたあまねくんが羨ましくてしょうがないんだ」
「……ハイジさん」
胸の中でとくんと1つ音がした。私にとって今ある幸せは、この人にとっては維持できなかったもの。そう考えると、何だかとても切なくなった。
「それから茉紀ちゃんにとっても」
「え?」
「君達は特にお互い愛し合ってるからね。茉紀ちゃんはほとんどずっと自分の片想いだった気がするって言ってた。結婚して子供がいても、埋まらないものがあるって思うと俺も心苦しいよ。だから余計に言いたくなかったのかもね。茉紀ちゃん自身も気付かないような嫉妬もあるんじゃないかな」
「嫉妬? 茉紀がですか?」
「だって、あまねくんに凄く愛されてる実感あるでしょ?」
「……はい」
「相手にこんなに想ってるって伝えることって難しくない? 上手いこと伝わらなくてすれ違うことの方が多い」
私とあまねくんもそんな時があった。勝手にあまねくんならわかってくれていると私が思っていたから。
「それがお互いに実感できるのってどの夫婦にでもあるものじゃないと俺は思う。だからこそ、俺は茉紀ちゃんの旦那のことは許せないよ。そこまで尽くしてくれる妻がいながら家事も育児も手伝わずに不倫するなんてさ。一度失ってみたらいいのにって思わずにはいられないね」
「……だからハイジさんはずっと私達のことを応援してくれたんですね」
「まあね。あと、あまねくんがしつこいからね。あんなにまどかちゃんのことが好きだって言われたら応援しないわけにもいかないでしょ」
ハイジさんはおかしそうに笑っている。彼は、私の知らないあまねくんをたくさん知ってるんだろうな。そう思うと少し妬けた。
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