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ファンクラブ

【22】

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 リビングに行くと、ノートパソコンはソファーに足を組んで座っている律くんの膝の上にあった。
 その隣に千愛希さんが腰をかけ、画面を覗き込んでいる。
 
 いつの間にかあまねくんと入れ替わっている配置に、微笑ましくなる。
 何だかんだ言っても、やはり仲が良さそうだ。

「あ! ようやく本物のまどかさんが見られたー!」

 千愛希さんは立ち上がり、顔を綻ばせる。しかしその刹那、奏ちゃんの姿を見つけて「え!? もう1人弟さんがいるの!?」と声を上げた。

 うーん、これに似たやり取りが以前にもあったような……。

「また?」

 奏ちゃんもうんざりした様子でそんな言葉を漏らしている。

「妹」

 律くんが奏ちゃんの方を見向きもしないでそう言った。リビングに顔を出さずに真っ直ぐ自室に帰ってくるのは日常茶飯事なのだろう。
 奏ちゃんがそこにいることに、特に驚く様子もない。

「妹さん!? 律そっくりじゃん!」

「そう言われるようになったの最近だから。一番下」

 要所の説明しかしない律くん。昔の奏ちゃんを見たら、千愛希さん驚くだろうなと思うと、想像しただけで笑えてくる。

「へぇ……カッコいい妹さんだね!」

 これだけSNSで騒がれているのに、奏ちゃんの事を知らない様子の千愛希さん。普段SNSは使用しないのだろうか。

「奏ちゃんはモデルさんなんだよ。色んなショーにも出てる有名人なの」

 私が我慢できずにそう言えば、「言わなくていいし」と隣で奏ちゃん。

「え!? そうなんですか! ごめんね、私モデルさんとかは疎くて……」

 申し訳なさそうに千愛希さんが顔を伏せると「別に……」と可愛い気のない反応をしている。

「うちの社長は若い綺麗な子が好きだからもしかしたら知ってるかもしれないなぁ」

 そう言いながらうーんと明後日の方を向いている。
 奏ちゃんの人気は若い女の子の層に偏っているわけだから、おじさん世代は知らないんじゃないかなぁ……なんて私も反応に困ってしまった。

「別にいいです。知ってもらわなくても」

 奏ちゃんがそんな言い方をするものだから、一瞬空気が凍る。
 律くんもさすがに顔を上げると「えー! 話し方まで律そっくり! 可愛いねぇ!」なんて笑顔を見せる千愛希さん。

「え?」

 私とあまねくんは同時にそんな間抜けな声が溢れた。

「その抑揚のない感じね! なんなら周くんの方が律と兄弟だっていっても違和感あるもんね」

 そんなことまで言っている。

「そうかなぁ? 俺、結構律と似てるって言われるけどなぁ」

 あまねくんも眉を下げて頬を指で掻いている。

「笑顔は似てるよね。普段は背格好だけだよ」

 私がそう言うと、「え!? まどかさんもそんなふうに思ってたの!?」と目を見開く。

「ほらほらー。身内と他人とじゃ見方が違うんだよ。あ、まどかさんはもう周くんの身内でした!」

 ふふふっと千愛希さんは口元を押さえて嬉しそうにしている。
 私とあまねくんが夫婦であることが相当嬉しいようだ。

 それにしても、驚くべきは奏ちゃんに対する態度である。私なんて、初めて奏ちゃんと話した時にはその場で泣きたい程傷ついたのに……。
 もともとこういう子なのだと割りきらないと、中々奏ちゃんと接するのは難しい。
 しかし、千愛希さんは何とも思っていないのか、けろっとしている。それに対して奏ちゃんも拍子抜けといったように口をぽかんと開けたままだ。

「それより、奏ちゃんっていうのね。私、律とは高校の同級生なの。よろしくね。それでね、今まどかさんのファンクラブ用のHPを作ってたところなの!」

 怖じ気づくどころか、積極的に話しかけ始めた。
 これは……奏ちゃんよりも厄介な人間を発見したかもしれない。

「HPって何のためにあるんですか? ……勝手にそんなもの作って」

 奏ちゃんはふいっと顔を背けて、口を尖らせる。
 恐らくプライベートでは、初対面の人間全員にこういった態度をとるのだろうとこの時初めて知った。

「それはね、皆が素敵なまどかさんをいつでもどこでも観賞できるようにするためだよ。そして、情報交換したりね!」

「情報交換もなにも……本人目の前にいるのに」

「そ、それは! 私みたいな一般人がそんなおいそれと近付けないじゃない! だからまずは遠くから少しずつ距離を埋めていくのよ……」

 そう言って千愛希さんは、頬を赤らめて両頬を手で覆っている。
 完全に表情は恋する乙女だけれど、なんだか違う気がする。そして、私もただの一般人だということを完全に忘れているようだ。
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