その傷を舐めさせて

雪村こはる

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傷が疼く

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「好きって……旭と同じ好き?」

「……わかりません。でも、旭さんよりも夜天さんの方が好きです……。触られるのも、一緒に寝るのも、夜天さんがいいです」

「それって、男としてってこと?」

「ほ、他に何があるんですかっ!」

 声を張り上げた夕映に、夜天は顔を引きつらせる。両手の親指から中指までの3本で夕映の両頬をむにっと摘んだ。

「誰が言ってんだよ。お前には前科があんだからな」

「ぜ、前科!?」

「友達だのなんだの言っておいて、散々俺を振り回しただろ」

「それは、夜天さんのほっ……ふぐぅっ」

 更に大きく頬を摘むと、されるがままの夕映はふがふがと口を動かす。口を尖らせて夕映にも言いたいことはあるようだ。

「うるせぇ。そもそもその気もねぇのに男の家に泊まりに行く方が悪ぃんだ」

「なぁ!? らって、らてんしゃんがっ、ともらちならふづぅって!」

「普通なわけねぇだろ。バカかよ! いけると思うだろ! 食っちまうぞ!」

「う……いいれす。らてんしゃんらら……」

 尚も頬を摘まれたまま、もごもごと話す夕映。夜天は眉を上げ、ぐっと奥歯を噛むと指先の力を抜く。そのまま右手の親指で夕映の顎先を下から押し上げると、無防備な唇を奪った。

 一瞬のことで放心する夕映。すぐに離れた唇と共に夜天の視線を捕らえる。

「簡単にいいとか言ってんな。ファーストキスもまだのくせに……」

 照れたように視線を逸らした夜天は、膝の上で頬杖をつく。ようやくキスされたことに気が付いた夕映は、かぁっと赤面した頬を両手で挟み込んだ。しかし、はっと顔を上げ「あの……ファーストキスは……旭さんとしてしまいました」と言った。

「はぁ!? それを先に言えよ!」

 夜天はくわっと中腰で声を上げる。ひぃっと身を縮める夕映は目を泳がしながら「一瞬のことでして、これも……」と言い訳を探す。

「ケーキの種類だの、新調したパジャマだのどうでもいいことをダラダラと……。なんでお前は、言わなくてもいいことはペラペラペラペラ喋るくせに肝心なことは言わねぇんだ! そもそもなっ」

 人差し指でツンツンツンツンと額を小突かれながら小言を言われる夕映は、あう……と顔をしかめながら指先で押される。
 押されすぎてグラッと重心が後ろに傾く。そのまま後方に倒れる夕映の体。夜天はその後頭部を手で支え、流れに身を委ねるかのようにして上から覆いかぶさった。
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