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傷が疼く
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夜天は大きく目を見開いた。それからはっと顔を上げて辺りをキョロキョロと見渡す。もう0時を回っているため、人通りは少ないがなんせ土曜日の夜だ。
いつ人が出入りしてもおかしくはない。
「とりあえず、場所移そうぜ……ここじゃ、な」
夜天の言葉に小さく頷く夕映。一旦夕映を引き剥がし、床に散らばった荷物を拾う夜天だが、その間にも背中から夕映が覆い被さる。
「……お前なぁ。誰の荷物まとめてると思ってんだ。ちったぁ手伝え」
「……あい」
渋々拾い集めた荷物。夜天がそれを持つと「この時間にやってるとこっていったらファミレスくらいしかねぇな」と言った。
夕映は目を丸くさせ「……夜天さんのお家は?」と言った。
「ああ、ダメだろ。旭とどうやって別れてきたのかしらねぇけど、今の状態じゃ家には上げられねぇよ」
「……何でですか?」
「お前、本当にバカなの? さっきまで他の男と付き合ってた女を家に入れるわけねぇだろ」
「でも、私は……夜天さんが好きです」
Tシャツの裾を指先で掴まれたら、うっと身を引く夜天。昨日、悔しさのあまり泣いたばかりだというのにこんな夕映の姿をみせられて胸が騒がないはずがない。
「旭は……」
「旭さんも知ってます。……私が、夜天さんのことを好きだって教えてくれたのは旭さんです……」
ずずっと鼻を啜りながら涙を手の甲で拭う。
「……旭から別れを切り出したのか」
「はい……」
なんとなく全貌が見えて、夜天は盛大にため息をついた。それからバツが悪そうに目を逸らし「……それでも家はダメだ」と言った。
夕映は、その言葉にぐっと喉の奥が苦しくなった。家に上げてもらえないほど既に手遅れだったのだと思い知らされた。
旭を選んでおいて今更夜天のことを好きだなんて、虫のいい話だと呆れているに違いない。そう思った夕映は涙を拭き、夜天の持っている荷物を掴んだ。
「ありがとうございました。……帰ります」
ちょこっと頭を下げた夕映に、夜天は顔をしかめた。
「おい、話は終わってねぇだろ。何で帰んだよ」
「……夜天さん、軽蔑してますよね。旭さんのこと好きだって言ったくせに、こうやって来たから……だから」
「してねぇよ。なんでそうなんだよ」
「私がっ、汚いから……お家にも入れてっ、くれないっ……」
またぶわっと涙が溢れた。ボロボロと泣く夕映の表情にぎょっとして慌ててふためく夜天。
「ばっ、そうじゃねぇから! 家に入れたら俺が我慢できなくなるからに決まってんだろ! 空気読めよ、バカ!」
マンションのエントランスだと言うことも忘れて、夜天は大声を響かせた。
いつ人が出入りしてもおかしくはない。
「とりあえず、場所移そうぜ……ここじゃ、な」
夜天の言葉に小さく頷く夕映。一旦夕映を引き剥がし、床に散らばった荷物を拾う夜天だが、その間にも背中から夕映が覆い被さる。
「……お前なぁ。誰の荷物まとめてると思ってんだ。ちったぁ手伝え」
「……あい」
渋々拾い集めた荷物。夜天がそれを持つと「この時間にやってるとこっていったらファミレスくらいしかねぇな」と言った。
夕映は目を丸くさせ「……夜天さんのお家は?」と言った。
「ああ、ダメだろ。旭とどうやって別れてきたのかしらねぇけど、今の状態じゃ家には上げられねぇよ」
「……何でですか?」
「お前、本当にバカなの? さっきまで他の男と付き合ってた女を家に入れるわけねぇだろ」
「でも、私は……夜天さんが好きです」
Tシャツの裾を指先で掴まれたら、うっと身を引く夜天。昨日、悔しさのあまり泣いたばかりだというのにこんな夕映の姿をみせられて胸が騒がないはずがない。
「旭は……」
「旭さんも知ってます。……私が、夜天さんのことを好きだって教えてくれたのは旭さんです……」
ずずっと鼻を啜りながら涙を手の甲で拭う。
「……旭から別れを切り出したのか」
「はい……」
なんとなく全貌が見えて、夜天は盛大にため息をついた。それからバツが悪そうに目を逸らし「……それでも家はダメだ」と言った。
夕映は、その言葉にぐっと喉の奥が苦しくなった。家に上げてもらえないほど既に手遅れだったのだと思い知らされた。
旭を選んでおいて今更夜天のことを好きだなんて、虫のいい話だと呆れているに違いない。そう思った夕映は涙を拭き、夜天の持っている荷物を掴んだ。
「ありがとうございました。……帰ります」
ちょこっと頭を下げた夕映に、夜天は顔をしかめた。
「おい、話は終わってねぇだろ。何で帰んだよ」
「……夜天さん、軽蔑してますよね。旭さんのこと好きだって言ったくせに、こうやって来たから……だから」
「してねぇよ。なんでそうなんだよ」
「私がっ、汚いから……お家にも入れてっ、くれないっ……」
またぶわっと涙が溢れた。ボロボロと泣く夕映の表情にぎょっとして慌ててふためく夜天。
「ばっ、そうじゃねぇから! 家に入れたら俺が我慢できなくなるからに決まってんだろ! 空気読めよ、バカ!」
マンションのエントランスだと言うことも忘れて、夜天は大声を響かせた。
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