180 / 253
近付く距離と遠ざかる距離
21
しおりを挟む
じんわりと涙が溜まる。鼻の奥がツンと痛くなった。
泣きそうな夕映の顔を見て、夜天は膝に肘を置いた状態で顔を手で覆う。
泣かせるために呼び出したわけじゃない。旭に会う度に嬉しそうにする夕映が旭と上手くいけばいいと思った。だからほんの少し刺激するくらい面白いと思えたし、焦る旭を見て笑うこともできた。
ただ、旭の反応は夜天が思っていたものとは違った。きっと夕映に対して恋愛感情はないものの、自分のことを好きだと言っていた女が離れていく気がして何となく引き止めたかっただけだと気付いた。
いっその事、俺みたいに友達としてって割り切ればよかったんだ。下手に誘って期待させてどうすんだよ。これで武内を諦めて他の男に目移りでもしたらこんなに浮かれてるコイツはどうなんだよ。
限りなくゼロに近いとか言っておきながら、なんで中途半端なことするかな……。バッサリ振ってやるのも優しさだと思うけど。
「やっぱり……諦めた方がいいですか?」
「……諦められないからこの前だって外来の前で待ってたんだろ?」
「そうですね……。私、何で上手くいかない人ばかり好きになっちゃうんですかね。夜天さんが前に言ったみたいに、私のことを好きになってくれた人がいたら、その人のことがわかればいいのに……。いつも友達を好きになる人か、全然私に興味ない人しか好きにならないんですよ……」
そう言いながら、夕映の頬をポロッと涙が伝った。黄色がかった蛍光灯が涙に反射してキラリと光る。
夜天はじっとその涙を見つめた。無意識に手を伸ばすと、指先でそれをすくい頬を撫でる。夕映は1度ゆっくり瞬きをすると、目で追うようにして夜天の視線にたどり着く。
視線が交わった瞬間、夜天はその小さな体を自分の腕の中に閉じ込めた。胸板に押し付けられた顔にとくとくと鼓動を感じた夕映は、驚いて目を見開くがじっと大人しく抱き締められていた。
「あ、あの……夜天さん……」
疑問を訴えそうな夕映に、夜天は更なる力を腕に込める。すっぽりと収まった体は、思っていたよりもずっと小さかった。夕映の髪に頬を寄せ、肩を越える。背中を優しく手で擦ると「いいから。大人しくしてろ」と低い声で囁いた。
「で、でも……」
こういうのは好きな人同士でするんじゃないのかな……。ドキドキと脈拍が速まる中、ピタリと涙を止めて頬を赤く染める夕映は、漫画やドラマで見る男女の抱擁を思い出した。
泣きそうな夕映の顔を見て、夜天は膝に肘を置いた状態で顔を手で覆う。
泣かせるために呼び出したわけじゃない。旭に会う度に嬉しそうにする夕映が旭と上手くいけばいいと思った。だからほんの少し刺激するくらい面白いと思えたし、焦る旭を見て笑うこともできた。
ただ、旭の反応は夜天が思っていたものとは違った。きっと夕映に対して恋愛感情はないものの、自分のことを好きだと言っていた女が離れていく気がして何となく引き止めたかっただけだと気付いた。
いっその事、俺みたいに友達としてって割り切ればよかったんだ。下手に誘って期待させてどうすんだよ。これで武内を諦めて他の男に目移りでもしたらこんなに浮かれてるコイツはどうなんだよ。
限りなくゼロに近いとか言っておきながら、なんで中途半端なことするかな……。バッサリ振ってやるのも優しさだと思うけど。
「やっぱり……諦めた方がいいですか?」
「……諦められないからこの前だって外来の前で待ってたんだろ?」
「そうですね……。私、何で上手くいかない人ばかり好きになっちゃうんですかね。夜天さんが前に言ったみたいに、私のことを好きになってくれた人がいたら、その人のことがわかればいいのに……。いつも友達を好きになる人か、全然私に興味ない人しか好きにならないんですよ……」
そう言いながら、夕映の頬をポロッと涙が伝った。黄色がかった蛍光灯が涙に反射してキラリと光る。
夜天はじっとその涙を見つめた。無意識に手を伸ばすと、指先でそれをすくい頬を撫でる。夕映は1度ゆっくり瞬きをすると、目で追うようにして夜天の視線にたどり着く。
視線が交わった瞬間、夜天はその小さな体を自分の腕の中に閉じ込めた。胸板に押し付けられた顔にとくとくと鼓動を感じた夕映は、驚いて目を見開くがじっと大人しく抱き締められていた。
「あ、あの……夜天さん……」
疑問を訴えそうな夕映に、夜天は更なる力を腕に込める。すっぽりと収まった体は、思っていたよりもずっと小さかった。夕映の髪に頬を寄せ、肩を越える。背中を優しく手で擦ると「いいから。大人しくしてろ」と低い声で囁いた。
「で、でも……」
こういうのは好きな人同士でするんじゃないのかな……。ドキドキと脈拍が速まる中、ピタリと涙を止めて頬を赤く染める夕映は、漫画やドラマで見る男女の抱擁を思い出した。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる