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近付く距離と遠ざかる距離
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夜天は消化器外科に内線をかける。暫くして誰かが出ると、夕映を出すように指示した。
「あ、お疲れ様です。どうかされましたか?」
わざわざ病棟にかけてきたのだから当然仕事の話だとでも思ったのか、いつもの声色とは違い、真面目な様子が伺えた。
「仕事終わったらこのピッチに電話して。話があるから外来寄ってけ」
「え?」
「それだけ」
夜天はそのまま一方的に電話を切った。こういうことは後回しにせず、早い内に聞いといた方がいい。夜天は頭の中で、質問をシミュレーションし、夕映の仕事が終わるのを待った。
夜天が数時間後に再び外来へ訪れた時には、さすがに杏奈の姿はなかった。夕映からの連絡を受け、ほぼ同時に2人は診察室に入った。
「お疲れ様です……」
「お疲れ」
「あの……私、何かしましたか?」
夜天の顔色を伺うようにビクビクと怯えた表情を浮かべている。こんなふうに呼び出されたのは初めてのことで、夕映は何も思い当たる節がないのにこの状況はなんなのかと気が気ではない。
「いや、別に。ちょっと聞きたいことがあって呼んだだけ。電話でもよかったんだけどな。でもどうせ出勤してるだろうから帰りに寄ってもらえばそれで済む程度のことだったから」
「なんだ……そうなんですね。私はてっきり仕事で何かやらかしてしまったのかと思いました」
「だったらあの場で言ったわ」
「それもそうですね」
夕映はようやく肩の力を抜いてふっと笑った。夜天は電話でもよかったと言ったが、それでは表情の変化を見ることができないし、誤魔化される可能性もあるため最初から面と向かって話をするつもりでいた。
わかりやすい夕映が嘘をつけば見破れる自信があった。
「単刀直入に聞くけど、お前旭の好きなヤツが誰か知ってるって言ったよな?」
「え!?」
突然の質問に、夕映は猫のように飛び上がった。安堵したところにそんな質問をされれば驚くのも当然だが、明らかに動揺し始めた夕映の変化にこりゃ黒かもしんねぇな、と夜天は息をつく。
「旭からその人物で合ってるって言われた?」
「えっと……えっと、はい、まぁ……」
「武内だろ」
「はいぃ!?」
上擦った声はそうだと言っているようなものだ。夜天はぐっと目頭を押さえた。
マジか……旭のヤツ、ゲイだったのか。そりゃ浮いた話もないわな。決して知られるわけにもいかねぇわ。
夕映が契約を持ちかける理由も納得できた。狼狽する夕映に「知ってるなら別にいいかと思ってな。実は、俺も昨日旭から相談されたんだわ。武内のことが好きなんだけどって」とさも本当のことのような声のトーンで話を進めた。
「あ、お疲れ様です。どうかされましたか?」
わざわざ病棟にかけてきたのだから当然仕事の話だとでも思ったのか、いつもの声色とは違い、真面目な様子が伺えた。
「仕事終わったらこのピッチに電話して。話があるから外来寄ってけ」
「え?」
「それだけ」
夜天はそのまま一方的に電話を切った。こういうことは後回しにせず、早い内に聞いといた方がいい。夜天は頭の中で、質問をシミュレーションし、夕映の仕事が終わるのを待った。
夜天が数時間後に再び外来へ訪れた時には、さすがに杏奈の姿はなかった。夕映からの連絡を受け、ほぼ同時に2人は診察室に入った。
「お疲れ様です……」
「お疲れ」
「あの……私、何かしましたか?」
夜天の顔色を伺うようにビクビクと怯えた表情を浮かべている。こんなふうに呼び出されたのは初めてのことで、夕映は何も思い当たる節がないのにこの状況はなんなのかと気が気ではない。
「いや、別に。ちょっと聞きたいことがあって呼んだだけ。電話でもよかったんだけどな。でもどうせ出勤してるだろうから帰りに寄ってもらえばそれで済む程度のことだったから」
「なんだ……そうなんですね。私はてっきり仕事で何かやらかしてしまったのかと思いました」
「だったらあの場で言ったわ」
「それもそうですね」
夕映はようやく肩の力を抜いてふっと笑った。夜天は電話でもよかったと言ったが、それでは表情の変化を見ることができないし、誤魔化される可能性もあるため最初から面と向かって話をするつもりでいた。
わかりやすい夕映が嘘をつけば見破れる自信があった。
「単刀直入に聞くけど、お前旭の好きなヤツが誰か知ってるって言ったよな?」
「え!?」
突然の質問に、夕映は猫のように飛び上がった。安堵したところにそんな質問をされれば驚くのも当然だが、明らかに動揺し始めた夕映の変化にこりゃ黒かもしんねぇな、と夜天は息をつく。
「旭からその人物で合ってるって言われた?」
「えっと……えっと、はい、まぁ……」
「武内だろ」
「はいぃ!?」
上擦った声はそうだと言っているようなものだ。夜天はぐっと目頭を押さえた。
マジか……旭のヤツ、ゲイだったのか。そりゃ浮いた話もないわな。決して知られるわけにもいかねぇわ。
夕映が契約を持ちかける理由も納得できた。狼狽する夕映に「知ってるなら別にいいかと思ってな。実は、俺も昨日旭から相談されたんだわ。武内のことが好きなんだけどって」とさも本当のことのような声のトーンで話を進めた。
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