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近付く距離と遠ざかる距離
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廊下を並んで歩く旭と夕映。何となく気まずい空気が流れた。
「……昨日、来なかったね」
「え!? あ、はい……」
旭の方からそんなことを言われるとは思わず、夕映は目を泳がせる。
「……来ると思ってた」
「あの……先生、忙しいかと思って」
「うん……。それでも今までは来てたのにね」
そっと顔を覗き込まれた。眉を下げ、ほんの少し寂しそうに笑う旭。夕映はそんな顔を初めて見た気がした。
「あ、はい……。前回、お邪魔してしまったみたいだったので……。一旦行ったんですけど……結局やめました」
「……そうだったんだ。それで、夜天のところに?」
「あ、夜天さんは廊下でたまたま会いまして、私が出血してるのを見つけて処置してくれただけです」
「そっか……。てっきり会いに行ったのかと思った」
旭はふっと柔らかく笑った。その笑顔がとても綺麗で夕映は見とれた。目に焼き付けておきたい。そう思いながらも照れ隠しをするかのように「ち、違いますよ。院内でわざわざ会いに行ったりしません……」と早口に言う。
「……そうなんだ」
「一昨日、ハンバーグ食べに連れて行ってもらったばかりですし」
夕映はふふっと嬉しそうに笑った。
出されたハンバーグは、夕映が想像していた通り、オニオンソースがたっぷりかかった大人のハンバーグだった。
「ハンバーグだったらここだな。いい肉使ってる」
「お、大人のハンバーグです!」
「だから、何なんだよそれ」
ははっと笑う夜天の前で、ナイフを入れる。ジュワッと中から肉汁が溢れた。
「うわぁ……美味しそう」
「美味いんだって。あ、でもここのことは誰にも言うなよ? 俺の穴場だからな」
「穴場……」
「飯食ってる時邪魔されるの嫌だから、知り合いがいそうなところには行かねぇんだよ。うるせぇだろ」
「じゃ、じゃあ……私もここ穴場にします」
「あ? お前、知り合いなんかいねぇじゃねぇか」
「いいいいますよ! 友達はいないけど知り合いはいます!」
「遂に友達いなくなったか。少しはいるって言ってたのに」
おかしそうに笑う夜天に頬を膨らめて拗ねた夕映。そんな数日前のことを思い出し、自然と笑みがこぼれた。
「……ハンバーグ?」
「はい! 美味しかったです。凄いんですよ! 肉汁がジュワァァーって出て」
「……夜天と2人で?」
「はい! 大人のハンバーグが食べたいって言ったら連れてってくれたんです! でも知り合いに会うと嫌だから、場所は内緒だって」
「それ言ったら内緒じゃないんじゃないの?」
「はっ! あ、忘れてください……」
しょぼんと肩を落として項垂れる夕映。小さな体が余計に小さく見えた。旭の休日は仕事と勉強で終わった。けれど、その間夜天と夕映はハンバーグを食べに行っていたらしい。
旭の中でグルグルと複雑な感情が渦巻く。
「……昨日、来なかったね」
「え!? あ、はい……」
旭の方からそんなことを言われるとは思わず、夕映は目を泳がせる。
「……来ると思ってた」
「あの……先生、忙しいかと思って」
「うん……。それでも今までは来てたのにね」
そっと顔を覗き込まれた。眉を下げ、ほんの少し寂しそうに笑う旭。夕映はそんな顔を初めて見た気がした。
「あ、はい……。前回、お邪魔してしまったみたいだったので……。一旦行ったんですけど……結局やめました」
「……そうだったんだ。それで、夜天のところに?」
「あ、夜天さんは廊下でたまたま会いまして、私が出血してるのを見つけて処置してくれただけです」
「そっか……。てっきり会いに行ったのかと思った」
旭はふっと柔らかく笑った。その笑顔がとても綺麗で夕映は見とれた。目に焼き付けておきたい。そう思いながらも照れ隠しをするかのように「ち、違いますよ。院内でわざわざ会いに行ったりしません……」と早口に言う。
「……そうなんだ」
「一昨日、ハンバーグ食べに連れて行ってもらったばかりですし」
夕映はふふっと嬉しそうに笑った。
出されたハンバーグは、夕映が想像していた通り、オニオンソースがたっぷりかかった大人のハンバーグだった。
「ハンバーグだったらここだな。いい肉使ってる」
「お、大人のハンバーグです!」
「だから、何なんだよそれ」
ははっと笑う夜天の前で、ナイフを入れる。ジュワッと中から肉汁が溢れた。
「うわぁ……美味しそう」
「美味いんだって。あ、でもここのことは誰にも言うなよ? 俺の穴場だからな」
「穴場……」
「飯食ってる時邪魔されるの嫌だから、知り合いがいそうなところには行かねぇんだよ。うるせぇだろ」
「じゃ、じゃあ……私もここ穴場にします」
「あ? お前、知り合いなんかいねぇじゃねぇか」
「いいいいますよ! 友達はいないけど知り合いはいます!」
「遂に友達いなくなったか。少しはいるって言ってたのに」
おかしそうに笑う夜天に頬を膨らめて拗ねた夕映。そんな数日前のことを思い出し、自然と笑みがこぼれた。
「……ハンバーグ?」
「はい! 美味しかったです。凄いんですよ! 肉汁がジュワァァーって出て」
「……夜天と2人で?」
「はい! 大人のハンバーグが食べたいって言ったら連れてってくれたんです! でも知り合いに会うと嫌だから、場所は内緒だって」
「それ言ったら内緒じゃないんじゃないの?」
「はっ! あ、忘れてください……」
しょぼんと肩を落として項垂れる夕映。小さな体が余計に小さく見えた。旭の休日は仕事と勉強で終わった。けれど、その間夜天と夕映はハンバーグを食べに行っていたらしい。
旭の中でグルグルと複雑な感情が渦巻く。
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