その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達だろ?

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 その日の夜、夕映のスマートフォンが鳴った。そろそろ眠ろうとベッドの中へ入ったところだった。
 画面には【渕上夜天】の文字。夕映は慌てて体を起こすと、乱れた髪を手櫛でなおしてから画面をスライドさせた。

「も、もしもしっ」

「まだ起きてたのか」

「起きてました……お疲れ様です」

「うん。お疲れ」

「……まだ院内ですか?」

「いや。今帰ってきたところ。シャワーくらいは浴びてぇし」

 夜天の声を聞きながら、耳からスマートフォンを離して画面を確認する。23時42分だった。

 こんな遅くまで仕事してるのか……。でも先生達っていつも6時くらいには病院にいるよね。

 いつ眠ってるんだろうかと疑問も募る中、再びスマートフォンを耳にあてる。

「夜天さん、どうかしたんですか?」

「あ? 連絡するって言ったろ、さっき」

「あっ、はい。……そうでした」

 あれは本気だったんだ。てっきりその場限りのものだと……。
 夕映はきゅっと口を結んでじっと夜天の声に耳を傾けた。

「旭とは色々話せたのか?」

 このタイミングで旭の名前が出てくるとは思わなかった。夕映はそっと瞼を持ち上げた。

「……話せました」

「そ。よかったな」

 夜天はドラム式の洗濯機をセットしながら頬を緩めた。俺のおかげじゃん、そう思いながら。しかし、「でももう、先生に会いに行くのはやめようと思います」そう夕映が続けたことで夜天はスタートボタンを押す手を止めた。

「……何で? 来るなって言われた?」

「違います。……やっぱり迷惑になりそうなので」

「お前はそれでいいの? 諦めないって言ってたのに」

「そうなんですけど……好きなのを押し付けるのも違うのかなって思って。私、希星先生から傷が治ったらかかりつけのクリニックに変更していいって言われてるんです。数値がいいんですって」

「うん? よかったな」

「はい。クリニックでもういいよって言われたら完治なんですって。私、高校生の時からこの病気のせいで嫌な思いたくさんしましたけど、もうそんな思いしなくてよくて」

「うん」

「かかりつけのクリニックも行く頻度も減って、病院に行かなくてもよくなって……受診する理由がなくなります」

「健康な証拠だろ」

「はい……。でも、荻乃先生に会いに行く口実もなくなります。先生が私のところに来てくれる理由もなくなります」

「そうだな」

「だからもう……会いに行くのはやめようと思ってます」

 そう言った夕映の声は震えていた。
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