その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達だろ?

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「お前な……今頃探してるかも知んねぇぞ」

「いや、外来に行くって言ってあるから用事があればこっちにかかってくるはず」

「あー……そう」

 夜天はようやく納得したように息をつく。それから、未だにポツンと立ち尽くしたままの夕映を見た。きょとんと目を瞬かせて、子猫のような眼差しで夜天を見上げていた。

 明日の準備で旭がいることを知っててやってきたのか。そう思った夜天は、必死に旭の魅力について語っていた夕映の姿を思い出した。それとなぜか不機嫌そうな旭の顔。夕映が失言でもしたか、あるいは……その原因は俺か。そう勘ぐりながら旭の動向を伺う。

 一瞬旭の視線が夕映に移ったのを確認した夜天。そっと口角を上げ、ちょっと面白そう……と悪意に満ちた笑みを浮かべた。

 このチビのことだから、無意識に旭を刺激したか。計算だったらとんでもねぇけど……。面白そうだからちょっとからかってみるか。

 夜天はふっと息を漏らす。他に想い人がいる旭と、いつまでもその旭を追いかける夕映。2人の関係は夜天からみれば滑稽なはずなのに、なぜか旭がつまらなそうな顔をしている。
 きっと旭は自分でも気が付かない内に俺の存在が気になってるんだろうな、そう思う。夜天は、自ら夕映に話しかけたのにも関わらず不思議そうな顔をすることもない旭に、既に自分と夕映が交友関係にあることを知っているのだと気付いた。
 それでいてこんなにも複雑そうな表情でいるんだから、夜天にとっては面白い展開に思えたのだ。

 どっちのことも困らせてやりたい。そんな子供じみたイタズラを思いつく。

「お前は明日も仕事だろ? 帰んなくていいのか?」

 夕映に向かってそう尋ねればピクリと反応する。

「か、帰りますよ。でも、私も夜天さんのところに行こうと思ってたんです」

 ……おっと。これはこれは……。コイツ、こんなんだから彼氏できねぇんだろうな。絶対男がイライラするタイプだもんな。

 夜天は笑いそうになるのをぐっと堪えた。旭のことがこれだけ好きだと言っておきながらその本人の目の前で今から他の男のもとへ行こうとしていたなんて言ってのけるんだから、何も考えていないとは恐ろしいと夜天は笑えてきた。
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