その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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 長い話にあくびを噛み殺した保と昴。ようやく終わった医局会に息を漏らしながら伸びをする。旭の後ろ姿を見つけた保は、いつもの如くその肩に腕を乗せ、体重をかけた。

「うわっ……」

「お疲れー」

「お、お疲れ……」

 真横に整った横顔が現れて気が気じゃない旭は、どうにか胸の高鳴りを抑えようと必死だ。ぐっと歯を食いしばり、保の甘い香りが自然と鼻を通り抜けるのを堪能した。

「もう帰んの?」

「いや、まだ……。緊急入院があって帰れなさそう」

「ああ、そう」

「武内だってまだ残るでしょ?」

「あー、俺らは帰れることの方が奇跡。それより旭、今日も小柳ちゃんに勉強教えてあげるの?」

「へ?」

 全く身に覚えのない旭は間抜けな顔をした。保はしたり顔を浮かべ「俺らには隠せませんよ。あの子があんな知識あるわけないんだから」と言った。

「バカ言え、お前感心してたじゃねぇか」

 後ろから声が聞こえ、振り返れば昴の姿があった。やっぱり2人はセットだよな、と何となく寂しくなる旭だったが、話の展開が見えなくて困惑した表情で保を見上げた。

「小柳ちゃんが点滴のオーダー間違いに気付いたんだよ。カリウム高値なのに3号液を入れるのはおかしいってね」

「え……? 小柳さんが?」

「そ。おっかない先輩に立ち向かってたよ。あんなに毎日虐められてるのに、泣かずによくやってるよ」

 旭から1歩離れた保は、肩をすくめて眉を下げた。旭は目を見開き、瞳を揺らした。

「虐め……?」

「え、何。もしかして旭知らなかったの? 小柳ちゃん、毎日嫌がらせされて怒鳴られまくってるのに。てっきり旭には相談してるかと思ってたわ……」

 保は右手で口元を覆い、本気で驚愕している様子の旭に頬を引きつらせた。旭は昨日の夕映を思い出し、動揺した。

「先生は大丈夫ですか?」

 そう尋ねた夕映を冷たくあしらってしまった。パーティーの時には大変になりそうだねと冗談混じりに言ったが、まさか本当に自分との噂のせいで虐げられているだなんて思ってもみなかった。

「あんまり度が過ぎるようなら俺らも見過ごせないけどな。今日だってあのまま点滴投与してたら、過失を押し付けられてたかもしんねぇぞ」

 白衣のポケットに両手を突っ込んだ昴がやれやれと息を吐く。バッと昴の方を振り返った旭の目をしっかり捕らえた。
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