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友達、あげようか?
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夕映の姿が見えなくなった個室で、手を伸ばしたまま渕上夜天は硬直していた。それからすぐに頭をガシガシを掻くと「あーくそっ!」と声を荒げた。テーブルに置きっぱなしにしておいたスマートフォンを手に取る。コミュニケーションアプリを開くと1番上には希星の名前があった。
『2人分の食事の領収書と夕映ちゃんの連絡先を確認してからチケットは渡すからね』
その文章をもう1度確認して、盛大にため息をつく。
「ふざけんなよ、あの女……勝手に帰りやがって」
ギリッと歯を食いしばった夜天は、舌打ちをすると仲居を呼びつけた。
「これと、あと若い女が好きそうなメニューを適当に持ってきて」
領収書がありゃいいんだろ! 連絡先は絶対に手に入れてやる。
ぐっとスマートフォンを握る手に力が入る。夜天は数日前に行われた希星とのやり取りを思い出していた。
希星から連絡が来るのは珍しい。同じ職場で姉弟で働くのは気が引けたが、希星が作ったオペの実績のおかげで好条件で就職できることが決まっていた。他の同期と比較して少しだけ基本給が高かったのは現在も機密事項だ。だから渋々就職したのだが、希星が必要以上に干渉してくることはなかった。
緊急オペを含めれば朝から晩までオペに身を捧げているような状態。夜天よりも多忙な生活を強いられているであろう希星がわざわざ連絡してくるくらいだから何事かと顔をしかめた。
『グレン・ブラウンのチケット欲しい?』
そんな内容がポコンと現れた。その瞬間、夜天は食い入るように画面を見つめた。彼はクラシックを聴きに行くのが趣味だったのだが、医師となり多忙な日々を過ごす中で休日にゆっくり鑑賞する時間がなくなっていった。けれど、世界でも有名なピアニスト、グレン・ブラウンの演奏だけは緊急連絡をすっぽかしてでも生で聴きたいと思っていた。
しかし、彼がノーベル平和賞授賞式で演奏したことが世界に報道されたことで更に人気は沸騰し、チケットは中々取れない。そんな彼が来日すると知ってはいたが、今回は交響楽団のコンサートとあってグレン・ブラウン以外にも有名な奏者が多数参加する。そのため、更にチケットは取りにくくなると諦めていた。
それなのに、添付された写真にはS席のチケット。奏者の目の前である。こんなチケット、どんなコネを使ったら取れるんだと喉から手が出るほど欲しかった。
『2人分の食事の領収書と夕映ちゃんの連絡先を確認してからチケットは渡すからね』
その文章をもう1度確認して、盛大にため息をつく。
「ふざけんなよ、あの女……勝手に帰りやがって」
ギリッと歯を食いしばった夜天は、舌打ちをすると仲居を呼びつけた。
「これと、あと若い女が好きそうなメニューを適当に持ってきて」
領収書がありゃいいんだろ! 連絡先は絶対に手に入れてやる。
ぐっとスマートフォンを握る手に力が入る。夜天は数日前に行われた希星とのやり取りを思い出していた。
希星から連絡が来るのは珍しい。同じ職場で姉弟で働くのは気が引けたが、希星が作ったオペの実績のおかげで好条件で就職できることが決まっていた。他の同期と比較して少しだけ基本給が高かったのは現在も機密事項だ。だから渋々就職したのだが、希星が必要以上に干渉してくることはなかった。
緊急オペを含めれば朝から晩までオペに身を捧げているような状態。夜天よりも多忙な生活を強いられているであろう希星がわざわざ連絡してくるくらいだから何事かと顔をしかめた。
『グレン・ブラウンのチケット欲しい?』
そんな内容がポコンと現れた。その瞬間、夜天は食い入るように画面を見つめた。彼はクラシックを聴きに行くのが趣味だったのだが、医師となり多忙な日々を過ごす中で休日にゆっくり鑑賞する時間がなくなっていった。けれど、世界でも有名なピアニスト、グレン・ブラウンの演奏だけは緊急連絡をすっぽかしてでも生で聴きたいと思っていた。
しかし、彼がノーベル平和賞授賞式で演奏したことが世界に報道されたことで更に人気は沸騰し、チケットは中々取れない。そんな彼が来日すると知ってはいたが、今回は交響楽団のコンサートとあってグレン・ブラウン以外にも有名な奏者が多数参加する。そのため、更にチケットは取りにくくなると諦めていた。
それなのに、添付された写真にはS席のチケット。奏者の目の前である。こんなチケット、どんなコネを使ったら取れるんだと喉から手が出るほど欲しかった。
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