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友達、あげようか?
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旭は、夕映が行きたいと言ったカフェに連れていってくれた。忙しいと思うので数時間だけでも……そう夕映が前振りしたように、緊急時に抜け出せにくい映画館や1日かかるアミューズメントパークは最初から選択肢にはなかった。
それでも夕映は、旭の私服姿を見られて、旭の車で送迎を受け、旭のプライベートな時間を分け与えて貰えただけで満足だった。
一方的に夕映が話している時間の方が圧倒的に多かったが、初めてデートというものを満喫できたのだ。
異性と出かけること自体が初の夕映は、相手が旭でよかったとこの上ない多幸感に包まれた。だから、今の状況を後悔するのは、あの時の幸せを否定するようで嫌だった。
3年我慢、我慢……。
そう自分に言い聞かせて廊下を歩く。すっかり院内も暗くなり、不気味なほど。しかし、夕映にとっては泣き顔を見られるくらいなら少しくらい暗い方がよかった。
「あれ? 夕映ちゃん?」
早足に進んでいた夕映はピタリと足を止めた。すっかり顔を合わす回数の多くなった主治医。入院中の毎日はもちろん、退院後も週に1回受診をしていたため、つい先日会ったばかりだ。
「渕上先生……」
廊下で見かけることはあっても、帰宅途中でバッタリ出くわすのは初めてだった。白衣に身を包んだ希星は髪を下ろしていた。艶のあるウェーブのかかった髪は、数mの距離があってもいい香りがしそうだった。
「今帰り? 随分遅くまで働くのね」
ふっと微笑んだ希星だったが、真っ赤に充血した夕映の目を見て表情をなくした。そっと手を伸ばすと、夕映の頬に触れる。
「泣いてたの?」
「あ、これは……」
慌てて下を向く夕映。こんなところで見られるなんて、と恥ずかしそうにサイドの髪で頬を隠した。
「どうしたの? 仕事辛いの?」
優しい声色で言われたら、夕映の涙腺は一気に緩み、ボロボロと涙が溢れた。
「ちょっ、夕映ちゃん!? どうしたの!? 話聞くから、ね?」
忙しいはずの希星だが、そのまま夕映を帰宅させようとはしなかった。外科のカンファレンス室に通され、泣きじゃくる夕映の話をゆっくりと聞いた。
それでも夕映は、旭の私服姿を見られて、旭の車で送迎を受け、旭のプライベートな時間を分け与えて貰えただけで満足だった。
一方的に夕映が話している時間の方が圧倒的に多かったが、初めてデートというものを満喫できたのだ。
異性と出かけること自体が初の夕映は、相手が旭でよかったとこの上ない多幸感に包まれた。だから、今の状況を後悔するのは、あの時の幸せを否定するようで嫌だった。
3年我慢、我慢……。
そう自分に言い聞かせて廊下を歩く。すっかり院内も暗くなり、不気味なほど。しかし、夕映にとっては泣き顔を見られるくらいなら少しくらい暗い方がよかった。
「あれ? 夕映ちゃん?」
早足に進んでいた夕映はピタリと足を止めた。すっかり顔を合わす回数の多くなった主治医。入院中の毎日はもちろん、退院後も週に1回受診をしていたため、つい先日会ったばかりだ。
「渕上先生……」
廊下で見かけることはあっても、帰宅途中でバッタリ出くわすのは初めてだった。白衣に身を包んだ希星は髪を下ろしていた。艶のあるウェーブのかかった髪は、数mの距離があってもいい香りがしそうだった。
「今帰り? 随分遅くまで働くのね」
ふっと微笑んだ希星だったが、真っ赤に充血した夕映の目を見て表情をなくした。そっと手を伸ばすと、夕映の頬に触れる。
「泣いてたの?」
「あ、これは……」
慌てて下を向く夕映。こんなところで見られるなんて、と恥ずかしそうにサイドの髪で頬を隠した。
「どうしたの? 仕事辛いの?」
優しい声色で言われたら、夕映の涙腺は一気に緩み、ボロボロと涙が溢れた。
「ちょっ、夕映ちゃん!? どうしたの!? 話聞くから、ね?」
忙しいはずの希星だが、そのまま夕映を帰宅させようとはしなかった。外科のカンファレンス室に通され、泣きじゃくる夕映の話をゆっくりと聞いた。
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