その傷を舐めさせて

先生は同性愛者

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　医局で男性だけしかいなくてもそれは変わらない。研修医同士で「可愛い子と合コンやるんだけど武内行かない？　やっぱ1人くらいイケメンがいないと向こうもレベルが高いと来てくれなくてさ」なんて話が出ても「俺、パスでお願いします。彼女一筋なんで」と先輩からの誘いを断っていた。

「彼女一筋って本当？」

　いつかそんなふうに聞いたことがあった。まだ保に恋心を抱く前の話だ。

「本当だよ。大学時代、けっこう彼女のこと傷付けたんだよね。わけあって俺遊び人だったから」

　保は肩をすくめて苦笑した。わけあって遊び人。どんな訳かと気にはなったが自分の非を認め、今は彼女を大切にする姿が羨ましかった。
　きっと保に愛されている彼女は幸せだろうな、そんなふうに自分の恋愛と比べてみたりした。

　当時の彼氏はバイセクシャルだった。恋愛対象は男性でも女性でも可能。だから、当然浮気相手には女性もいた。男性にしか恋愛感情が湧かない旭とは違い、女性のことも好きになれる、もっと言えば遊び相手として選ぶことも可能だった。

　一緒に住んでいた家の枕に女性の長い髪がついていた時、旭は1人家で声を上げて泣いた。自分との空間に他人が入り込んで勝手に荒らされていく。それは、自分が決して恋愛感情を抱くことのない女性だ。

「泣くほど嫌なら別れる？　旭が俺から離れられないんでしょ？　旭のこと、好きだよ。1番好き。他の人は遊びじゃん。だから旭と一緒に住んでるでしょ？」

　そんな言葉さえ安心材料にした。他にも帰る家があるだなんて知らないまま。