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第二章 三品目 おいもの”ちゅるちゅる”
8 『ちゅるちゅる』の正体
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「え?『ちゅるちゅる』が何か分かったんですか?」
案の定、奈々は目を丸くしていた。
同じ部屋の隅でお昼寝中の天が起きないよう、声を潜めて尋ね返す。
「でも……じゃがいもの麺類なんてあるんですか?」
「うん、ちゃんとあのレシピノートに載ってたよ」
「え!? どこですか?」
奈々が慌ててレシピノートを開くので、竹志は、ページをめくって、目当てのメニューのページを導き出した。
「『しりしり』? でもこれ、普通に炒めてるだけじゃ……」
『しりしり』とは、沖縄の家庭料理だ。じゃがいもやにんじんとツナを炒めて卵で和えて作り、お手軽で美味しい。
「晶さんが思い出してくれたんだよ。にんじんで作ってたらしいんだけど、じゃがいもでも作ろうとしてたって。これ、ものすごく細く切るんだよ」
「ものすごく細く……それで炒めたらしんなりして、麺みたいになるってことですか?」
竹志は、深く頷いた。
「僕は作ったことないんだけど、確かに麺ぐらい細く切ったらそうなると思う。それに、それ以外に『ちゅるちゅる』に当てはまりそうな料理、ノートには見当たらないし」
「そう、ですね……」
奈々の顔は、半信半疑といった様子だ。竹志の意見は確信に近いようだが、正解とは言い切れないのだから仕方ない。
いずれにせよ、もう夕飯の時間に近い。タイムリミットが近いのだ、作ってみるほかない。
「じゃあ、天ちゃん起こして、私もお手伝いします」
「え、起こさなくていいんじゃない? ご飯が出来たら……」
「寝過ぎたら夜に寝られなくなります。こんな時間にお昼寝っていうのだって、遅すぎるのに……」
険しい視線を向けられ、竹志は押し黙った。子育て経験のない竹志には口出しできないことだと察したのだった。
「天ちゃん、起きて」
「うーん……ねね、おなかすいた」
「うん、もうすぐご飯やから、起きといて」
「ご飯……天ちゃんもいく」
天は寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、奈々の腕にぴったりしがみついた。ふらつきながらも立ち上がると、奈々としっかり手を繋いで居間に向かって歩いて行った。居間にいる野保に後を頼み、竹志と奈々は台所に入った。その後ろ姿を、ぼんやりした視線が追いかけていたことに、二人は気付いていなかったようだ。
竹志と奈々が台所に入ってまず第一にしたことといえば……当然、じゃがいもを取り出すことだ。冷蔵庫には置かず、風通しの良いところにダンボールを置いてある。その中から、大きなじゃがいもをいくつか選んだ。
「泉さん、これですか?」
「うん、できるだけ大きいのがいいから」
入っていたのは男爵いもばかり。丸に近い形で、熱を通すと柔らかくなりやすい。丸い分、長さがないのが今回は難点だ。
「メークインだったらそれっぽくなるんだけどなぁ……まぁ頂いたものに文句をつけるのは良くないよな。これだとたぶん切りやすいし」
「切る……細ーく切るんですよね。じゃがいもを……」
急に奈々の顔が曇り始めた。嫌、と言うより気が重いようだ。
「別に僕がやるよ?」
「い、いえやります。私も作れるようになっといた方がええと思うし……!」
そう言うと、奈々は今度は奮起した。これだけ既往ということは……と、竹志は思う。
「奈々ちゃん、やっぱり細切りとか、苦手?」
竹志がそろりと尋ねると、奈々は徐々に縮こまっていって……か細い声で呟いた。
「私、不器用で……」
とても恥ずかしそうだった。自分の告げた言葉で押しつぶされてしまいそうなほどに小さくなってしまっている。
(誰かに何か言われたのかな……)
中学生ともなると、学校で調理実習もあり、家族以外の人間の前で料理をする機会もある。何気ないことで、心ない言葉を浴びせられて傷つくといった可能性は十分にある。
まして、奈々のこの繊細さでは……。
「じゃあ、まず僕が試しにやってみるね」
今の奈々では、自分から率先して料理をするということは難しそうだ。竹志は、取り出した中で比較的小ぶりなじゃがいもを手に取った。
案の定、奈々は目を丸くしていた。
同じ部屋の隅でお昼寝中の天が起きないよう、声を潜めて尋ね返す。
「でも……じゃがいもの麺類なんてあるんですか?」
「うん、ちゃんとあのレシピノートに載ってたよ」
「え!? どこですか?」
奈々が慌ててレシピノートを開くので、竹志は、ページをめくって、目当てのメニューのページを導き出した。
「『しりしり』? でもこれ、普通に炒めてるだけじゃ……」
『しりしり』とは、沖縄の家庭料理だ。じゃがいもやにんじんとツナを炒めて卵で和えて作り、お手軽で美味しい。
「晶さんが思い出してくれたんだよ。にんじんで作ってたらしいんだけど、じゃがいもでも作ろうとしてたって。これ、ものすごく細く切るんだよ」
「ものすごく細く……それで炒めたらしんなりして、麺みたいになるってことですか?」
竹志は、深く頷いた。
「僕は作ったことないんだけど、確かに麺ぐらい細く切ったらそうなると思う。それに、それ以外に『ちゅるちゅる』に当てはまりそうな料理、ノートには見当たらないし」
「そう、ですね……」
奈々の顔は、半信半疑といった様子だ。竹志の意見は確信に近いようだが、正解とは言い切れないのだから仕方ない。
いずれにせよ、もう夕飯の時間に近い。タイムリミットが近いのだ、作ってみるほかない。
「じゃあ、天ちゃん起こして、私もお手伝いします」
「え、起こさなくていいんじゃない? ご飯が出来たら……」
「寝過ぎたら夜に寝られなくなります。こんな時間にお昼寝っていうのだって、遅すぎるのに……」
険しい視線を向けられ、竹志は押し黙った。子育て経験のない竹志には口出しできないことだと察したのだった。
「天ちゃん、起きて」
「うーん……ねね、おなかすいた」
「うん、もうすぐご飯やから、起きといて」
「ご飯……天ちゃんもいく」
天は寝ぼけ眼をこすりながら起き上がると、奈々の腕にぴったりしがみついた。ふらつきながらも立ち上がると、奈々としっかり手を繋いで居間に向かって歩いて行った。居間にいる野保に後を頼み、竹志と奈々は台所に入った。その後ろ姿を、ぼんやりした視線が追いかけていたことに、二人は気付いていなかったようだ。
竹志と奈々が台所に入ってまず第一にしたことといえば……当然、じゃがいもを取り出すことだ。冷蔵庫には置かず、風通しの良いところにダンボールを置いてある。その中から、大きなじゃがいもをいくつか選んだ。
「泉さん、これですか?」
「うん、できるだけ大きいのがいいから」
入っていたのは男爵いもばかり。丸に近い形で、熱を通すと柔らかくなりやすい。丸い分、長さがないのが今回は難点だ。
「メークインだったらそれっぽくなるんだけどなぁ……まぁ頂いたものに文句をつけるのは良くないよな。これだとたぶん切りやすいし」
「切る……細ーく切るんですよね。じゃがいもを……」
急に奈々の顔が曇り始めた。嫌、と言うより気が重いようだ。
「別に僕がやるよ?」
「い、いえやります。私も作れるようになっといた方がええと思うし……!」
そう言うと、奈々は今度は奮起した。これだけ既往ということは……と、竹志は思う。
「奈々ちゃん、やっぱり細切りとか、苦手?」
竹志がそろりと尋ねると、奈々は徐々に縮こまっていって……か細い声で呟いた。
「私、不器用で……」
とても恥ずかしそうだった。自分の告げた言葉で押しつぶされてしまいそうなほどに小さくなってしまっている。
(誰かに何か言われたのかな……)
中学生ともなると、学校で調理実習もあり、家族以外の人間の前で料理をする機会もある。何気ないことで、心ない言葉を浴びせられて傷つくといった可能性は十分にある。
まして、奈々のこの繊細さでは……。
「じゃあ、まず僕が試しにやってみるね」
今の奈々では、自分から率先して料理をするということは難しそうだ。竹志は、取り出した中で比較的小ぶりなじゃがいもを手に取った。
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