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第二章 二品目 リンゴの”くるくる”
10 ”くるくる”を作ろう♪
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深めの小鍋を火にかけた。じわじわ熱が伝わり、熱気を放つそこへ、竹志は計っておいたバターを入れた。音も立てずに、バターはとろんと形をなくしていく。
その様子を見た天は、ほわっと感嘆の声を上げた。
「とけた! ホットケーキにのってるやつより早い!」
「うん、熱したフライパンだからね。ホットケーキと違って、絶対に触っちゃダメだよ」
「わかった」
頷きながら元気にそう言う天。本当に大丈夫だろうかと一抹の不安を覚えながらも、竹志は視線を鍋に戻した。
小鍋を覗き込むと、先ほどまで四角い形をしていたバターが完全に液状化していた。うっすらクリーム色のとろっとしている中に、今度はグラニュー糖をがばっと入れた。細かな砂糖の粒がバターと溶け合っていくと、次はレモン汁を入れる。最後にシナモンパウダーを入れて混ぜ合わせると、甘さとほんのり酸っぱさが混ざった香りが小鍋から香ってきた。
竹志の隣に立つ天が、鼻をクンクンさせながら竹志の手元を覗き込んでいる。
「これなに?」
「ふっふっふ……まぁ待ってよ。その前に、今度はこっちを準備しよう」
目をキラキラさせる天の目の前に、竹志は別のものを手に取って見せた。それは……
「リンゴや!」
「そう。これを、こう切っていきます」
竹志は天にも見えるように、リンゴをまな板に置いて、ストンと2つに切り分けた。そしてそのまま縦に、横に、真っ直ぐ切り分けていく。格子状に切り分けていくと、いくつものスティック状になったリンゴが出来上がる。
それを見た天は、更に目を輝かせた。その様子に、竹志はニヤリと笑う。
やはり、竹志の予感は的中していたようだ。出来上がりを想像して喜ぶ天を見て、そう確信した。
「じゃあ、これを……ここに入れます」
そう言い、リンゴのスティックを先ほど作った小鍋にがばっと入れた。リンゴと甘酸っぱいバターの液が絡み合っていく。すべてのリンゴがバターを纏うと、竹志は小鍋から離れた。そして、次なるものに手を伸ばす。
まずはオーブンレンジ。200度にセットして予熱を開始する。
そして材料を量る前から作業机に置いておいた、パイシートだ。パッケージから出して、まだビニールに覆われた状態だ。触ってみると温度も室温ほどになっており、指で押すと凹むくらいに柔らかく解凍できていた。
「よし、もういいかな」
竹志はパイシートを覆うビニールを剥がし、まな板に広げる。長方形で5ミリほどの厚さのそれに、さらさらと小麦粉を振りかけると、麺棒を押し当てた。
ぐっと力を込めて、前へ後ろへ、右へ左へ動かしていく。その動きに合わせて、パイシートが広がっていく。厚みが薄くなり、その分、より大きな長方形へと変わっていく。
先ほどの倍ほどまで広がったら、麺棒を包丁に持ち替えて、切り分けていく。今度は縦に、少し太い紐のように。先ほどスティック状に切ったリンゴと同じ数だけ、パイシートの紐を切り分けた。
パイシートの紐と、小鍋に入ったリンゴ、二つを並べて、竹志は天を振り返った。
「よし、じゃあ最後の仕上げだ」
そう言うと、小鍋の中のリンゴを一つ取り出す。次いで、パイシートの紐を一つ手に取る。そして、スティック状の細長いリンゴにくるくる巻いていく。
同時に、天がぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
「”くるくる”や!」
「うん、”くるくる”だよ」
リンゴにパイシートの紐をくるくる巻き、オーブンの天板に並べていく……それを繰り返し、あっという間に20個ほどの”くるくる”ができた。
できたら今度は卵黄だけを溶いた卵液を表面に塗っていく。すべてのリンゴに塗り終えたちょうどその頃に、オーブンが予熱完了を知らせた。
扉を開くとむわっとした熱気が顔に覆い被さる。竹志はそれらが天にかからないように注意しながら天板をオーブンに入れた。
「15分ほど……これでOK!」
スタートのボタンを押すと、オーブンの中が明るく照らされ、キレイに並べられた”くるくる”たちの姿が見える。卵液が灯りを照り返しながら、徐々に膨らんでいくパイシートに押されていく。ただリンゴに巻き付いていただけの紐が、やがて中のリンゴを包み込むように大きく、ふっくらとした形に変わっていく。
あまり加熱中のオーブンをじっと見てはいけないと思い、貼り付こうとする天を引き剥がしていたが、膨らんでいく様子が気になる気持ちは、竹志にもよく理解できた。
(あれを口に入れたら、きっと……)
味や食感を想像せずにいられない。吸い寄せられるようにオーブンに近づくと、甲高い音がして、灯りが消えた。
出来上がりだ。
天と顔を見合わせながら、キッチンミトンを着けて、オーブンの蓋を開ける。すると、小さな声が聞こえてきた。
「ほわぁ……!」
天が、中を見て感嘆の声を上げている。竹志も、同じ思いだ。
火傷をしないように慎重に、熱い庫内から天板を取り出す。ふっくらと膨らみ、こんがり焼き色のついた、甘くほんのり酸っぱく、そして香ばしい香りを漂わせた、リンゴの”くるくる”が、そこにいる。
「よし、くるくる一口アップルパイの出来上がり!」
その様子を見た天は、ほわっと感嘆の声を上げた。
「とけた! ホットケーキにのってるやつより早い!」
「うん、熱したフライパンだからね。ホットケーキと違って、絶対に触っちゃダメだよ」
「わかった」
頷きながら元気にそう言う天。本当に大丈夫だろうかと一抹の不安を覚えながらも、竹志は視線を鍋に戻した。
小鍋を覗き込むと、先ほどまで四角い形をしていたバターが完全に液状化していた。うっすらクリーム色のとろっとしている中に、今度はグラニュー糖をがばっと入れた。細かな砂糖の粒がバターと溶け合っていくと、次はレモン汁を入れる。最後にシナモンパウダーを入れて混ぜ合わせると、甘さとほんのり酸っぱさが混ざった香りが小鍋から香ってきた。
竹志の隣に立つ天が、鼻をクンクンさせながら竹志の手元を覗き込んでいる。
「これなに?」
「ふっふっふ……まぁ待ってよ。その前に、今度はこっちを準備しよう」
目をキラキラさせる天の目の前に、竹志は別のものを手に取って見せた。それは……
「リンゴや!」
「そう。これを、こう切っていきます」
竹志は天にも見えるように、リンゴをまな板に置いて、ストンと2つに切り分けた。そしてそのまま縦に、横に、真っ直ぐ切り分けていく。格子状に切り分けていくと、いくつものスティック状になったリンゴが出来上がる。
それを見た天は、更に目を輝かせた。その様子に、竹志はニヤリと笑う。
やはり、竹志の予感は的中していたようだ。出来上がりを想像して喜ぶ天を見て、そう確信した。
「じゃあ、これを……ここに入れます」
そう言い、リンゴのスティックを先ほど作った小鍋にがばっと入れた。リンゴと甘酸っぱいバターの液が絡み合っていく。すべてのリンゴがバターを纏うと、竹志は小鍋から離れた。そして、次なるものに手を伸ばす。
まずはオーブンレンジ。200度にセットして予熱を開始する。
そして材料を量る前から作業机に置いておいた、パイシートだ。パッケージから出して、まだビニールに覆われた状態だ。触ってみると温度も室温ほどになっており、指で押すと凹むくらいに柔らかく解凍できていた。
「よし、もういいかな」
竹志はパイシートを覆うビニールを剥がし、まな板に広げる。長方形で5ミリほどの厚さのそれに、さらさらと小麦粉を振りかけると、麺棒を押し当てた。
ぐっと力を込めて、前へ後ろへ、右へ左へ動かしていく。その動きに合わせて、パイシートが広がっていく。厚みが薄くなり、その分、より大きな長方形へと変わっていく。
先ほどの倍ほどまで広がったら、麺棒を包丁に持ち替えて、切り分けていく。今度は縦に、少し太い紐のように。先ほどスティック状に切ったリンゴと同じ数だけ、パイシートの紐を切り分けた。
パイシートの紐と、小鍋に入ったリンゴ、二つを並べて、竹志は天を振り返った。
「よし、じゃあ最後の仕上げだ」
そう言うと、小鍋の中のリンゴを一つ取り出す。次いで、パイシートの紐を一つ手に取る。そして、スティック状の細長いリンゴにくるくる巻いていく。
同時に、天がぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
「”くるくる”や!」
「うん、”くるくる”だよ」
リンゴにパイシートの紐をくるくる巻き、オーブンの天板に並べていく……それを繰り返し、あっという間に20個ほどの”くるくる”ができた。
できたら今度は卵黄だけを溶いた卵液を表面に塗っていく。すべてのリンゴに塗り終えたちょうどその頃に、オーブンが予熱完了を知らせた。
扉を開くとむわっとした熱気が顔に覆い被さる。竹志はそれらが天にかからないように注意しながら天板をオーブンに入れた。
「15分ほど……これでOK!」
スタートのボタンを押すと、オーブンの中が明るく照らされ、キレイに並べられた”くるくる”たちの姿が見える。卵液が灯りを照り返しながら、徐々に膨らんでいくパイシートに押されていく。ただリンゴに巻き付いていただけの紐が、やがて中のリンゴを包み込むように大きく、ふっくらとした形に変わっていく。
あまり加熱中のオーブンをじっと見てはいけないと思い、貼り付こうとする天を引き剥がしていたが、膨らんでいく様子が気になる気持ちは、竹志にもよく理解できた。
(あれを口に入れたら、きっと……)
味や食感を想像せずにいられない。吸い寄せられるようにオーブンに近づくと、甲高い音がして、灯りが消えた。
出来上がりだ。
天と顔を見合わせながら、キッチンミトンを着けて、オーブンの蓋を開ける。すると、小さな声が聞こえてきた。
「ほわぁ……!」
天が、中を見て感嘆の声を上げている。竹志も、同じ思いだ。
火傷をしないように慎重に、熱い庫内から天板を取り出す。ふっくらと膨らみ、こんがり焼き色のついた、甘くほんのり酸っぱく、そして香ばしい香りを漂わせた、リンゴの”くるくる”が、そこにいる。
「よし、くるくる一口アップルパイの出来上がり!」
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