君はプロトタイプ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
19 / 111
Chapter2 『実験』の始まり

11

しおりを挟む
 肉と大量の調味料(全部が全部、舌が焼けそうに辛い)によってマグマみたいに真っ赤な餡と、その中においてまだ純白を保つ豆腐を、よーく混ぜて絡めて、レンゲにすくう。とろんとした餡が、したたり落ちる。
 レンゲごと真っ赤にそまったそれを、ぱくっと一気に頬張る。思ったほどは、辛くない。なんだか拍子抜けだなと思って、もう一口すくった、その時だった。
「う……か、から……っ!!」
 徐々に、辛さが増してくる。一旦引いた波がどどんと押し寄せてきて舌を覆い尽くすようだった。普段、担々麺なんかの辛いものは比較的好きな方なのに、この人口はとても耐えられるものじゃなかった。
 衝撃と舌の痺れで、「辛い」と言うことすらできない。
「大丈夫ですか」
 ナオヤくんはそっと水のコップを差し出した。一気に飲み干すけれど、辛味からくる痛みはいっこうに引かない。
「あ、すみません。辛味に水は逆効果なんでした」
「……わざとじゃないよね……!?」
「まさか。反応が遅れると言ったじゃないですか」
 咄嗟の気遣いにまで影響するとは……いやでも、気を使ってくれたのは確かだから、怒れない。
 それに、店員さんに何か伝えている様子が見える。申し訳なさそうな顔を見るに、たぶん、悪気はないのだと思う。
 そんな考えを巡らせていると、ストンと、目の前にコップが置かれた。
「こっちをどうぞ。牛乳です。辛さが和らぎますよ」
「え、本当……?」
 目の前にあるコップには、真っ白な牛乳がなみなみと注がれていた。今度こそ、と信じて一気に飲んだ。
「……あ、ちょっとマシになった」
「乳製品はカプサイシンを分解する効果がありますから」
「あ、ありがとう……」
 お礼を言うと、ナオヤはほんの少し微笑んだ。安心した、と言いたげな顔だ。
 なんだか直視できなくて、俯いて牛乳をもう一口飲む。
「でも、牛乳なんてメニューにあった? 辛さを和らげるなら、激辛料理と一緒に飲んだら邪道なんじゃ……」
「彼に頼んだら快く了承してくれました」
「彼?」
 ナオヤくんが手で指し示した先には、高校生くらいの若い男性がいた。というか、高校生そのものだった。
 同じクラスの男の子だ。
 呼ばれたと思ったのか、その男の子はこちらに手を振りながらぴょこっとやって来た。
「よ! 一時間ぶりくらい? ご贔屓にどうも」
「ど、どうも……えっと……加地くんだよね?」
 加地かじ芳樹よしきくん……去年も同じクラスだった男の子だ。去年はクラス委員も引き受けていて、活発な人という印象が強い。色んな部活から引っ張りだこらしいけど、家の手伝いがあるからとどこにも所属していないらしい。その分、どこの部にでも助っ人として現れるという噂だ。
「良かった。ちゃんと覚えててくれたか。天宮さん、あんまり人と話さないから、名前も覚えられてないかもって思ってた」
「そ、そんなわけないよ。前はちょっと事情があって……それより、このお店が加地くんのお家?」
「そ! うちの看板メニュー頼んでくれてありがとな。でも、辛すぎたら無理しなくていいから」
 爽やかな笑顔につい甘えてしまって、そっと、レンゲを置いた。完食はするつもりだけど、ちょっと休憩。これは、長期戦で臨まないと倒せないと判断した。
「なんか甘いもんと交互に食べたら? サービスするわ」
「い、いいよ。頼んどいて食べられないのなんて、こっちが失礼なんだから」
「いやまぁ、残されるのは悲しいけど、俺らだって病人出したいわけじゃないし。深海だっけ? お前もそう思うだろ?」
 そう言って、加地くんはナオヤくんの方を向いた。すると、何故だかぎょっとしていた。
 私も、ナオヤくんを見て驚いた。私が置いたレンゲをとって、激辛料理をすくいとろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

曙光ーキミとまた会えたからー

桜花音
青春
高校生活はきっとキラキラ輝いていると思っていた。 夢に向かって突き進む未来しかみていなかった。 でも夢から覚める瞬間が訪れる。 子供の頃の夢が砕け散った時、私にはその先の光が何もなかった。 見かねたおじいちゃんに誘われて始めた喫茶店のバイト。 穏やかな空間で過ごす、静かな時間。 私はきっとこのままなにもなく、高校生活を終えるんだ。 そう思っていたところに、小学生時代のミニバス仲間である直哉と再会した。 会いたくなかった。今の私を知られたくなかった。 逃げたかったのに直哉はそれを許してくれない。 そうして少しずつ現実を直視する日々により、閉じた世界に光がさしこむ。 弱い自分は大嫌い。だけど、弱い自分だからこそ、気づくこともあるんだ。

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

超エンジェル戦士シャイニングカクウ

レールフルース
ライト文芸
何もかもがダメで、グータラだけどちょっとした正義感があるごく普通の中学生の佐東誠心(さとうまさむね)がある日メモリーパワーを受けてシャイニングカクウになってしまった! シャイニングカクウに変身できるようになった誠心は大喜び。だけど周りの人には見えないから自慢ができない。 人間に密かに憑依して悪事を働くジェラサイドと言う悪の組織に立ち向かいながらも青春や恋愛に友情などを味わうヒーロー物語! 果たして佐東誠心はこの世界を守れるか!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀龍太朗
ライト文芸
 流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。  そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!  同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

処理中です...