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第6章 聖大樹の下で
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「無事か、レティシア!」
そこにいたのは――リュシアンだった。レティシアの元婚約者。幼なじみ。そして、公衆の面前でレティシアを貶めてくれて、つい先日も『魔女』と罵ってくれた男。
「……何かご用ですか、リュシアン殿下」
レティシアは慇懃無礼を地で行くように、ソファに座ったままぞんざいに言った。もちろん、わざとだ。
「な、何なんだその態度は! せっかく助けに来てやったというのに!」
「はぁ?『助けに』? 何の冗談ですか? 私、もうあなたのおふざけに付き合うつもりは毛頭ありませんけど」
けんもほろろに、とはこのことだ。自分でも自業自得と分かっているのか、リュシアンは珍しく言い返さないようだが。
「申し訳ございませんけど、私は今、色々と忙しいんです。わざわざあなたに罵倒される時間もなければ趣味もない。『魔女と英雄ごっこ』でもしたいなら、どうぞ孤児院へ行って遊んであげて下さいな」
「そこまで言うか」
「言いますとも」
「こんなことをしている場合じゃないんだぞ」
「……もしかして……本当に何かご用が?」
リュシアンは明らかに苛立っている。いや、焦っていると言うべきか。しきりに自分が壊したドアの方を振り返っては、落ち着かない様子でいる。
「いいか、よく聞け。今、王宮に兄上が来ている。そして徴税に異議を唱えて見直しを要求していた」
「……兄上?」
「エルネスト兄上だ! 生きていらした……お前も知っているだろう」
「生きていらしたのは喜ばしいですが……お会いしたことはありませんよ?」
「何を言ってるんだ、お前は……いや、今はいい。とにかくその流れで8年前のパーティーでのことも暴いたりと、とにかく大司教様の罪を暴こうとしているんだ」
「ということは、それを大司教様が察知すれば……」
「議会を止めに入るか、少しでも証拠・証人を消そうとする。つまりは、お前だ」
リュシアンの言葉にしてはいやに信憑性がある。今度はそのことが疑わしく思えてしまって、やはり疑惑の目を向けてしまった。
リュシアンもまた自覚があるのか、決まり悪そうにぼそぼそ呟いた。
「大司教様がお前を殺そうとしていると知らせてくれたのは、アネットなんだ……だからその……信用していいだろう?」
「確かに、リュシアン様が仰るよりは……」
「相変わらず口が減らないな」
「だって減らす必要を感じない人なんですもの。だいたい、まだ納得がいきません。彼女に言われたからだとしても、本当にリュシアン様が助けてくださるかは疑問だわ。あなたにとって私は『魔女』なのでしょう?」
そう。リュシアンがレティシアを敵視していた事実は変わらない。それも『魔女』なんていう酷い名で呼んでいた。
ここから連れ出したとして、レティシアの身の安全が保証されるわけではなかった。
教会からさらに別の場所へ拉致されてそのまま処刑……なんてことだって、あり得るのだから。
「『魔女』などと言ったことは、謝罪する。とにかく今は……」
「今は、そう思っていないということですか? リュシアン様ご自身が?」
リュシアンは小さく頷いた。あまりにも潔い態度に、かえって疑り深くなってしまう。
「どうして、いきなり……?」
「一つ、思い出したことがある」
そこにいたのは――リュシアンだった。レティシアの元婚約者。幼なじみ。そして、公衆の面前でレティシアを貶めてくれて、つい先日も『魔女』と罵ってくれた男。
「……何かご用ですか、リュシアン殿下」
レティシアは慇懃無礼を地で行くように、ソファに座ったままぞんざいに言った。もちろん、わざとだ。
「な、何なんだその態度は! せっかく助けに来てやったというのに!」
「はぁ?『助けに』? 何の冗談ですか? 私、もうあなたのおふざけに付き合うつもりは毛頭ありませんけど」
けんもほろろに、とはこのことだ。自分でも自業自得と分かっているのか、リュシアンは珍しく言い返さないようだが。
「申し訳ございませんけど、私は今、色々と忙しいんです。わざわざあなたに罵倒される時間もなければ趣味もない。『魔女と英雄ごっこ』でもしたいなら、どうぞ孤児院へ行って遊んであげて下さいな」
「そこまで言うか」
「言いますとも」
「こんなことをしている場合じゃないんだぞ」
「……もしかして……本当に何かご用が?」
リュシアンは明らかに苛立っている。いや、焦っていると言うべきか。しきりに自分が壊したドアの方を振り返っては、落ち着かない様子でいる。
「いいか、よく聞け。今、王宮に兄上が来ている。そして徴税に異議を唱えて見直しを要求していた」
「……兄上?」
「エルネスト兄上だ! 生きていらした……お前も知っているだろう」
「生きていらしたのは喜ばしいですが……お会いしたことはありませんよ?」
「何を言ってるんだ、お前は……いや、今はいい。とにかくその流れで8年前のパーティーでのことも暴いたりと、とにかく大司教様の罪を暴こうとしているんだ」
「ということは、それを大司教様が察知すれば……」
「議会を止めに入るか、少しでも証拠・証人を消そうとする。つまりは、お前だ」
リュシアンの言葉にしてはいやに信憑性がある。今度はそのことが疑わしく思えてしまって、やはり疑惑の目を向けてしまった。
リュシアンもまた自覚があるのか、決まり悪そうにぼそぼそ呟いた。
「大司教様がお前を殺そうとしていると知らせてくれたのは、アネットなんだ……だからその……信用していいだろう?」
「確かに、リュシアン様が仰るよりは……」
「相変わらず口が減らないな」
「だって減らす必要を感じない人なんですもの。だいたい、まだ納得がいきません。彼女に言われたからだとしても、本当にリュシアン様が助けてくださるかは疑問だわ。あなたにとって私は『魔女』なのでしょう?」
そう。リュシアンがレティシアを敵視していた事実は変わらない。それも『魔女』なんていう酷い名で呼んでいた。
ここから連れ出したとして、レティシアの身の安全が保証されるわけではなかった。
教会からさらに別の場所へ拉致されてそのまま処刑……なんてことだって、あり得るのだから。
「『魔女』などと言ったことは、謝罪する。とにかく今は……」
「今は、そう思っていないということですか? リュシアン様ご自身が?」
リュシアンは小さく頷いた。あまりにも潔い態度に、かえって疑り深くなってしまう。
「どうして、いきなり……?」
「一つ、思い出したことがある」
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