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第6章 聖大樹の下で

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 日が昇り、落ちて、また昇った。その間、レティシアは一歩も外に出ていない。

「そうか……これが本来の引きこもりなのね」

 正確には『軟禁』だが、急に訪れた何もしない時間というものが、レティシアの思考を鈍らせた。

 考えれば考えるほど、何をしても無駄だと思えたから。

(大司教様の企みに、お兄様まで付いていた。きっと周到に仕組まれていたのね。抜け出せばお父様たちやバルニエ領に累が及ぶなんて言われてしまえば、何も出来ないじゃない……)

 時間が経てば、怪しんだアベルたちや父が何か動いてくれるかとも思ったが、相手が教会ではそう簡単にはいかない。ましてアベルは遠く離れた地にいる。この『恵み』が枯れているという国中が危機の時に、唯一豊かである土地と言うことで、立場も複雑だ。

 レティシア一人のために動けるはずがない。

「……まぁ、じっくり考えましょうか。殺されるわけではないんだし」

 大司教には自分の力が必要。それだけは確かだ。

 だとすれば、命の安全は保証されているということ。チャンスは、まだある。

「じゃあ、今はこの環境に慣れることにするわ」

 そう誰にともなく言うと、ソファに大きく四肢を投げ出した。鼻歌まで歌って、ここを快適な自分の城にしよう。

 そう思った時、ノックが聞こえた。遠慮がちでもなく、荒くもなく、上品なノックだった。

「はぁい、どうぞ」

 投げやりに返事をすると、すぐに扉は開いた。入ってきた人物は、レティシアのなんともだらしない姿を見て眉をひそめて……呆れた。

「……シア、なんて格好だ」
「お兄様、いらっしゃい」

 かろうじて起き上がりはしたが、ソファから立ち上がろうとはしない。傍から見ればふてくされた態度だ。

「とても客人を迎える態度には見えないね」
「お兄様は客人なの?」
「……どう思うかは君に任せる」

 そんなずるい言葉に、レティシアの眉根がきゅっと寄る。
 拗ねた顔を見て、セルジュはくすりと笑うと、テーブルの上に、持っていたカゴを置いた。

「これは何ですか? お花?」
「料理人からの見舞いだよ」
「アランのこと?」
 
 セルジュは頷いた。

 駕篭を手元に引き寄せようとすると、意外と重かった。そんなにぎゅうぎゅう詰めになっているのだろうか。

 不思議に思ってじっと駕篭の中を見つめた。

 どこからどう見ても、よく見覚えのある花だ。小さく、真っ白い、蔓の先に咲く可憐な花。これは……

「ジャガイモ……地域によっては、そう呼ばれているらしいな」
「お兄様は『ポムドテール』の方がなじみ深いのですか?」
「……何故そう思う?」
「ただの勘です。あの日……八年前のパーティーの日、お兄様は苦しんでいるお父様達を連れ帰ってきたけれど、ご自分は平気そうだった。その前日の夜は、忙しそうに遅くまでお出かけしていた。そして、いつからかは存じませんが大司教様の手足となって動いている……そこからほんの少し推測しただけです」
「なるほど……私に言いたいことが山ほど出来たことだろう」
「いいえ。訊きたいことは一つ……『どうして』と、それだけです」
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