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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は

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 その場所は、静かだった。

 廃墟と呼ぶには整然としていて、住居と呼ぶにはあまりに静か。アランが、かつて父親と兄と共に暮らしていた家だ。

 もう、どれくらい時間が経っただろう。誰もいない室内で、アランはただじっとうずくまっていた。

 思わず教会を飛び出したアランが自然にたどり着いたのが、ここだった。ここしか、行く宛など無かった。

 罪人が暮らしていた家だからか、今では誰も住んでいないらしい。だが八年も手つかずだった割には、家の中は綺麗だった。

 最近までは誰かが暮らしていたのだろうか。それならば良かった、とアランは思った。

 父の残していったものが、誰かの役に立ったなら良かった。自分と違って、役に立ったならば……そう思った。

 必死に自分たちを守ってくれたアベルやレオナールも、唯一の肉親であるジャンも、そして大恩あるレティシアすらも裏切ってしまった。そうまでしてアランが得たかったものは、『処分』の一言であっさりと切り捨てられた。

 アランは、何も得られなかった。ただ、いいように使われて、その結果大切な人たちを欺いて傷つけただけだった。

「父さん、兄さん、アベル様……僕はもう……!」
「『もう』……何だよ」
 
 アランの耳に、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

 声だけじゃない、姿もだ。

 今は王都から遠く離れた領地にいるはずの、たった一人の兄・ジャンが、目の前に立っている。

「兄さん……どうして……」
「教会にいるんならどうしようもないが、もしも外に出たんなら、ここだろうと思って来てみたんだよ……わかりやすい奴だなぁ」
「素直に『無事で良かった』と言ってやりなさい」

 憮然としているジャンの後ろから、レオナールがクスクス笑いながら、そう声を掛けた。笑ってはいるが、どこか安心した様子なのはジャンと同じだった。

「アベル様からの伝言だ。『危険なことに一人で首を突っ込んだ説教をするから、そのつもりで』だそうだ」

 アランは、ジャンを通してすべて告白していた。これまでずっとアベルの様子を大司教に伝えていたことも、レティシアの軟禁に関わったことも、その理由も。

 無事に事を成し遂げられたならまだ良かったが、それすらも適わなかった。

 今更、合わせる顔などないはずだ。そのはずなのに、アベルのかけた言葉は、まるで早い帰還を促しているかのようだ。
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