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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は
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ネリーは思わず、手近な鉢植えを手に取った。すぐに投げつけられるように。
それを見た男達が、呆れたように何か言い合っていた。
「アベル様、それは『怪しい』って自白してるようなもんですぜ」
「だったらどう言えばいいんだ」
「素直に自己紹介をすればいいんです」
「そ、そうか。あ~……失礼した。俺はバルニエ領主アベル・ド・ランドロー伯爵。もしや……ネリー・ド・マルベール嬢……か? リール家の傍系で、マルベール子爵の令嬢の?」
「私の名をどうして……?」
「その……レティシア嬢から、よく話を聞いていた。寝坊が多いが、よく気配りしてくれる頼もしい侍女だと」
「どうしてそれを……寝坊のことはお嬢様しか……あ!」
その時ネリーも気がついた。男の真っ黒な髪の奥に、炎のように真っ赤な瞳が見える。
それは、レティシアがよく言っていた人物の特徴と重なった。その人物とは……
「アベル・ド・ランドロー伯爵……本当に、ランドロー伯であらせられるのですか……?」
その名を、ネリーから口にした時、黒髪の男……アベルは、ようやくホッとしたように表情を和らげた。
「突然の……それもこんな私的な場所に現れて、本当に申し訳ない。火急の用で、転移してこなければならなくて、この部屋の彼女の魔力を目印にして来たもので……」
「はぁ……」
まだ困惑しているネリーがおずおずと頷こうとした。だが、その前に廊下が騒がしくなった。バタバタと荒々しい足音が響き、数秒後には大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
ネリーの叫び声に、屋敷の衛兵達が集まったのだ。その先頭にいたのは、この屋敷の主である、レティシアの父・リール公爵だ。
「何者だ! 我が屋敷でいったい何をしている!」
「……久しいな、リール卿」
そう、悠々と答えるアベルに、リール公爵は剣のような視線を向けた。だが、その相貌を見た瞬間、驚きのあまり手にしていた武器を取り落とした。
「あなたは……!」
驚きのあまり震えるリール公爵を、アベルはじっと見据え、そして薄く微笑んだ。
「俺を、覚えていてくれたか」
アベルの言葉に、リール公爵は頷き、そして膝を折った。周囲にいた衛兵達は、主人の突然の行いにただただ呆然としているばかりだ。
アベルは頭を垂れるリール公爵の肩をそっと叩き、顔を上げるよう命じた。
「あの時は、世話になった」
「そのような……もったいないお言葉でございます」
「世話になっておいて図々しいのは百も承知だが……卿の善意に、今一度甘えたい。どうか、力を貸してはくれまいか」
「わ、私めが……ですか」
「ああ。事は俺だけでは無い、卿の娘レティシア嬢にも関わる」
「娘が……でございますか!?」
レティシアの名を聞いたリール公爵は、立ち上がり、周囲の者たちにも視線を送った。
「お話を伺いましょう。忠実なる臣下・リール公爵が、必ずやあなた様のお力になれるよう尽力いたします」
「頼んだ」
「お任せを――第一王子エルネスト=ディオン・ド・ルクレール殿下」
それを見た男達が、呆れたように何か言い合っていた。
「アベル様、それは『怪しい』って自白してるようなもんですぜ」
「だったらどう言えばいいんだ」
「素直に自己紹介をすればいいんです」
「そ、そうか。あ~……失礼した。俺はバルニエ領主アベル・ド・ランドロー伯爵。もしや……ネリー・ド・マルベール嬢……か? リール家の傍系で、マルベール子爵の令嬢の?」
「私の名をどうして……?」
「その……レティシア嬢から、よく話を聞いていた。寝坊が多いが、よく気配りしてくれる頼もしい侍女だと」
「どうしてそれを……寝坊のことはお嬢様しか……あ!」
その時ネリーも気がついた。男の真っ黒な髪の奥に、炎のように真っ赤な瞳が見える。
それは、レティシアがよく言っていた人物の特徴と重なった。その人物とは……
「アベル・ド・ランドロー伯爵……本当に、ランドロー伯であらせられるのですか……?」
その名を、ネリーから口にした時、黒髪の男……アベルは、ようやくホッとしたように表情を和らげた。
「突然の……それもこんな私的な場所に現れて、本当に申し訳ない。火急の用で、転移してこなければならなくて、この部屋の彼女の魔力を目印にして来たもので……」
「はぁ……」
まだ困惑しているネリーがおずおずと頷こうとした。だが、その前に廊下が騒がしくなった。バタバタと荒々しい足音が響き、数秒後には大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
ネリーの叫び声に、屋敷の衛兵達が集まったのだ。その先頭にいたのは、この屋敷の主である、レティシアの父・リール公爵だ。
「何者だ! 我が屋敷でいったい何をしている!」
「……久しいな、リール卿」
そう、悠々と答えるアベルに、リール公爵は剣のような視線を向けた。だが、その相貌を見た瞬間、驚きのあまり手にしていた武器を取り落とした。
「あなたは……!」
驚きのあまり震えるリール公爵を、アベルはじっと見据え、そして薄く微笑んだ。
「俺を、覚えていてくれたか」
アベルの言葉に、リール公爵は頷き、そして膝を折った。周囲にいた衛兵達は、主人の突然の行いにただただ呆然としているばかりだ。
アベルは頭を垂れるリール公爵の肩をそっと叩き、顔を上げるよう命じた。
「あの時は、世話になった」
「そのような……もったいないお言葉でございます」
「世話になっておいて図々しいのは百も承知だが……卿の善意に、今一度甘えたい。どうか、力を貸してはくれまいか」
「わ、私めが……ですか」
「ああ。事は俺だけでは無い、卿の娘レティシア嬢にも関わる」
「娘が……でございますか!?」
レティシアの名を聞いたリール公爵は、立ち上がり、周囲の者たちにも視線を送った。
「お話を伺いましょう。忠実なる臣下・リール公爵が、必ずやあなた様のお力になれるよう尽力いたします」
「頼んだ」
「お任せを――第一王子エルネスト=ディオン・ド・ルクレール殿下」
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