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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は

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 大丈夫。危険はないはず。

 そう、自分自身に言い聞かせ、レティシアはそっと手をかざした。自分の魔力がどこかに流れていくのがわかる。そんな感覚を覚えると同時に、機械に設置された魔石が煌々と輝いた。

 すると、機械の先に設置されていた小瓶が光で満たされていく。
 バルニエ領で目にした光景と、同じだ。

「それを、どうするおつもりですか」

 レティシアが尋ねると、大司教は答えず、ただニッコリと微笑んだ。そしておもむろに、修道士が持ってきた、土だけ詰め込まれた鉢植えにそっと瓶の中身を注いだ。

 それは、ただ不思議な色をした水が土に吸い込まれていっただけのように見えた。だが、次の瞬間、レティシアがよく知っている現象が起こる。

 何もない平坦な土から、急に芽が飛び出した。かと思うとしゅるしゅると背が伸びていき、花を咲かせ、そしてすぐに枯れてしまった。そして、枯れた花がしぼんで、種を作り、土に落ちて、また新たな芽が出た。

 それを数度繰り返している様子を、大司教は爛々とした目で見つめていた。

「あの……大司教様? これが何か……?」
 
 おそるおそる尋ねたレティシアの手を、大司教の手が急に乱暴に掴み取った。

「素晴らしい!」
「は、はい!?」

 大司教の手は、離れようとしたレティシアの手をしっかり掴んで離そうとしない。老人とは思えない膂力だ。

「ああ、レティシア……やはり君が必要だ。君こそ神にも勝る、この世で最も神聖な存在。私に……いや、我々に必要な真の聖女だ」
「……は?」

 レティシアは頭の中を整理することに必死になっていた。

「わ、私が真の聖女って……いったいどういう……?」
「言葉通りだとも。歴代の聖女様方と同じ、国母と呼ぶにふさわしい力を持った女性ということだよ」
「ふざけないでください!」

 先ほどまでかろうじて持っていた敬いの念が、かき消えていくのが分かる。目の前の老人が何を言っているのか、さっぱりわからない。

 渾身の力で手を引き剥がすと、大司教はそれを名残惜しそうに見つめながらも告げた。

「ふざけてなどいないよ。私はずっと、君が聖女であるということを疑ったことなどない」
「だけど私は……アネットのように花を咲かせることは……」
「アネットは……まぁ少し違うのだよ。それに君だって、君自身の真価をわかっているじゃあないか。植物とは、華々しく咲くことばかりが役目ではない。むしろその先……花が枯れて、実をつけ、種を生む。そして新たな命を生み出す……それこそが、全ての命が担う役割ではないかね」
「それは……そうですが」
「君は、それを助ける力を持っている。他の誰にも出来ない、素晴らしい力だ。君を聖女と呼ばずしてどうするんだね」
「ではアネットは!? 彼女が聖女として立ったのは何故ですか!」
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