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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は

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(これは、いったいどういうこと?)

 目覚めたレティシアの頭には、疑問符ばかりが浮かんでいた。

 ここはどこか。どうして見覚えのない部屋で目覚めるのか。ネリーはどこか。
 もやのかかった記憶を掘り起こしてみる。

 確か、明け方にセルジュと共に教会へ忍んで行った。そして大司教に会った。

 バルニエ領の窮状を伝えて、追加徴税に関する交渉の場を設けて貰えるよう仲立ちを頼む……はずだった。

(お話は出来たんだったかしら? 大司教様はなんて言っていた?)

 肝心の、話の結果については何も思い出せない。おまけに眠りについた覚えがないのにしっかり眠っていたのだから、訳が分からない。

「ここはリール公爵の邸宅……ではないわね」

 今いる部屋は明らかに公爵邸と造りが違う。壁も床も、窓も天井も。それに、自室の続きの間がない。いつもならネリーが寝ぼけ眼でそこから起き出してくる様子が見える。

 調度品や部屋の細かなあしらいを見れば、ここが賓客をもてなす目的の部屋であることはわかるのだが……。

「いったい誰にもてなされたの、私は?」

 よく見ると、寝間着には着替えず、出かけたときのままの服装だった。

「つまり……教会に出かけて、何があったか、そのままどこかで寝こけて、誰かのお宅で寝ていた……? 何がどうなってるの?」

 状況を整理しようとして、かえって混乱したレティシアの耳に、外から音が流れ込んできた。荒々しい、物々しい足音だった。

 足音の主は無言でレティシアのいる部屋のドアを開けると、ぎろりとレティシアを睨みつけた。はっきりとした敵意が、その視線には溢れていた。

「レティシア……!」
「リュシアン様……?」

 久しぶりに会った元婚約者は、憎々しげな声で、名を呼んだ。彼の癇癪など受け流してきたレティシアだったが、今度ばかりは、そうはいかなかった。その様子を、竦んでいると受け取ったのか、リュシアンは歪んだ笑みを見せた。

「ようやく捕らえられたか……良い気味だ」
「……何のことを仰っているのですか?」
「当然の報いを受けたんだと言っている。身に覚えがあるだろう」
「あるわけがないでしょう。報いって何ですか? ここがどこかもわからないのに? まったく意味が分かりません」

 毅然とそう言い返すレティシアを見て、リュシアンが口を引き結んだ。

「わからないだと……? ここは教会だ。お前は、大罪人として捕らえられたんだ。やがて裁きが下されるだろう」
「いったい何の罪で? 私、ここのところずっと屋敷に引きこもっていたんですよ?」

 『引きこもっていた』は嘘だが、王都で囚われるような悪さをしていないことは確かだ。

「お前なら、引きこもっていても十分だろう。今、王都で自分が何と呼ばれているのか、知らないのか?」
「だから、何のことですか?」

 レティシアがとぼけていると思ったのか、リュシアンはため息交じりに睨んだ。
 そして、声をはき出すと共に、一歩ずつ、進んでくる。

「いいだろう。この私が、貴様の罪状を挙げてやる。お前は、あの卒業セレモニーの日、我が婚約者アネットとの力の差を見せつけられ、逃げ帰ったな」
「……はい」
「逃げ帰ったお前は、復讐の機会を窺っていた。だが、そんな機会は訪れない。私が守っていたからな」
「……はぁ?」
「そこで、業を煮やしたお前は、自分の力を最大限に利用することにした。そう……国中の『恵み』を奪うという暴挙に出たのだ」
「……は!?」

 リュシアンの目が、愉快そうに光った。あの日……卒業セレモニーでレティシアを貶めようとした時と、同じ目だ。

「この国から『恵み』を奪い、人々を苦しめるお前を、人々はこう呼んでいるぞ。

『魔女』――とな」
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