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第5章 聖女の価値は 魔女の役目は
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窓の外は薄暗かった。もう昼前だというのに、太陽の光はいっこうに姿を見せない。
ここ最近では珍しく、空は雲に覆われて、湿っぽい空気を生み出していた。
「ひと雨来そうですね」
窓の外を見ていた領地管理人のレオナールは呟いた。その側で机にかじりついている領主アベルは、ちらりと外を見やっただけで、すぐに視線を戻した。
「雨が降るのはいいことだ。聖女ではなく、自然の恵みだからな」
「それもまた、神による『恵み』なのでは?」
「それをありがたいと思えるほど、恩恵を受けていないのでね」
「……仰りたいことはわかります」
寒く、乾燥していて、土も貧しかった。必要な時には雨は降らず、十分な時には必要以上に降る。
かつてこの国が開かれた頃には豊かな穀倉地帯だと呼ばれていたが、今はそんな時代は忘れ去られてしまった。
聖女がこの土地から去り、国王の関心も去り、溢れんばかりだった『恵み』も枯れていった。
「俺に『恵み』をもたらしてくれたのは、領民達と……あの芋聖女だ。神でも国でもない」
「……そうですね」
その領民達の暮らしを守るため、アベルは机に向かい続けている。
王家によって課された莫大な税について、真っ向から向かい合って交渉するための準備だった。レオナールと二人、寝ずに取り組んだおかげか、ようやくまとまった。
「まぁ、交渉次第で必要なものも変わるだろうが、公爵に仲立ちを頼む際に、参考くらいにはして貰えるだろう」
「……公爵閣下は、引き受けて下さるでしょうか?」
「五分五分だな。人柄だけ見れば、承諾してくれるだろう。だが宰相という立場から見れば……難しいだろうな」
「なるほど」
苦い面持ちだったが、アベルはそれでも手を止めなかった。これはアベル一人の問題ではないのだ。
「レティシア様が、吉報を運んで下さることを祈りましょう」
「……そうだな」
「では、私の作業は一区切り付いたので、ゆっくりレティシア様を待つことにします。何か、朝食をお持ちしましょう」
「頼む……そういえばアランはどうした? いつもならとっくに来ている時間だろう」
「わかりません。どういうわけか、朝から一度も顔を出さないのです。ジャンも」
「二人揃ってか? 何か悪いものでも食べたのか?」
「それすらもわかりません……後で様子を見に行きましょうか」
「ああ、任せた」
――と、アベルが頷いたその時、廊下からとてつもなく乱暴な足音が響いてきた。怒り狂っているのか、慌てふためいているのか。わからないが足音は確実にアベル達のいる部屋に向かって来た。
そして、同じくらい乱暴にドアが開かれた。
「アベル様! 大変です!!」
ここ最近では珍しく、空は雲に覆われて、湿っぽい空気を生み出していた。
「ひと雨来そうですね」
窓の外を見ていた領地管理人のレオナールは呟いた。その側で机にかじりついている領主アベルは、ちらりと外を見やっただけで、すぐに視線を戻した。
「雨が降るのはいいことだ。聖女ではなく、自然の恵みだからな」
「それもまた、神による『恵み』なのでは?」
「それをありがたいと思えるほど、恩恵を受けていないのでね」
「……仰りたいことはわかります」
寒く、乾燥していて、土も貧しかった。必要な時には雨は降らず、十分な時には必要以上に降る。
かつてこの国が開かれた頃には豊かな穀倉地帯だと呼ばれていたが、今はそんな時代は忘れ去られてしまった。
聖女がこの土地から去り、国王の関心も去り、溢れんばかりだった『恵み』も枯れていった。
「俺に『恵み』をもたらしてくれたのは、領民達と……あの芋聖女だ。神でも国でもない」
「……そうですね」
その領民達の暮らしを守るため、アベルは机に向かい続けている。
王家によって課された莫大な税について、真っ向から向かい合って交渉するための準備だった。レオナールと二人、寝ずに取り組んだおかげか、ようやくまとまった。
「まぁ、交渉次第で必要なものも変わるだろうが、公爵に仲立ちを頼む際に、参考くらいにはして貰えるだろう」
「……公爵閣下は、引き受けて下さるでしょうか?」
「五分五分だな。人柄だけ見れば、承諾してくれるだろう。だが宰相という立場から見れば……難しいだろうな」
「なるほど」
苦い面持ちだったが、アベルはそれでも手を止めなかった。これはアベル一人の問題ではないのだ。
「レティシア様が、吉報を運んで下さることを祈りましょう」
「……そうだな」
「では、私の作業は一区切り付いたので、ゆっくりレティシア様を待つことにします。何か、朝食をお持ちしましょう」
「頼む……そういえばアランはどうした? いつもならとっくに来ている時間だろう」
「わかりません。どういうわけか、朝から一度も顔を出さないのです。ジャンも」
「二人揃ってか? 何か悪いものでも食べたのか?」
「それすらもわかりません……後で様子を見に行きましょうか」
「ああ、任せた」
――と、アベルが頷いたその時、廊下からとてつもなく乱暴な足音が響いてきた。怒り狂っているのか、慌てふためいているのか。わからないが足音は確実にアベル達のいる部屋に向かって来た。
そして、同じくらい乱暴にドアが開かれた。
「アベル様! 大変です!!」
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