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第4章 祭りの前のひと仕事、ふた仕事

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 早馬でも何日もかかる距離ですら、レティシアにかかればほんの一瞬。戻ってみれば、思った通り夕食はすべて下げられており、レティシアはまたしても空腹に耐え忍ぶ夜を過ごす羽目になっていた。

 夕食抜きと分かった時には床に崩れ落ちそうになったが、不思議と心の奥底ではそれほど絶望はしていなかった。どうしてかはわからないが。

 いや、わかってはいるのだが……。

「…………ああ、もう!」
「お嬢様、どうかなさいました?」

 紅茶を淹れようとしていたネリーが、驚いて手を止めた。

 アベルの不敵な、そして愉快そうな顔が頭から離れない。何度別のことを考えようとしても、浮かび上がってしまう。

 それらを振り払おうと突然奇声を上げてはネリーを驚かせて……といったことを繰り返している。

(いったいどうしてしまったの……!?)

 やるべきことはたくさんある。

 だが汗を洗い流し、着替えを済ませると……急に色々なことが頭の中をぐるぐる巡りだした。その『色々』とは、全部アベルのことだった。

「ああああああああああああぁ!!」
「な、何ですか、お嬢様!?」

 紅茶をカップに注ごうとしていたネリーがびくっとして手を止めた。危うく取り落としてしまうところだった。

「ネリー、私、病気かもしれない」
「え、どこかお悪いのですか!?」

 慌てて駆け寄ったネリーは、レティシアの額に手を添えた。だが……

「お熱は、ないようですが……気分でも悪いのですか? それともお腹が痛むとか、息が苦しいとか……」
「そう……息が苦しいかもしれない」
「た、大変! すぐにお医者様を……!」
「お医者様に……頭の中を見せることはできるかしら?」
「…………はい?」

 ネリーは、駆け出そうとしていた足をぴたりと止めた。

「その……詳しくは言えないけど、ある人のことが頭から離れなくて……そのくせ、考えるとなんだか胸が苦しくなってくるのよ」
「…………はぁ」
「いったいどうしたらいいの? あの人のことを考えないようにするには、どうすればいい?」
「お、お嬢様、落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんていられないわ。このままじゃ私、生きていけないじゃない。すごく苦しいのよ、死んじゃうわ」

 ネリーが返答に困る間も、レティシアはネリーにじりじりと詰め寄っていた。
 だがその瞬間、幸か不幸か部屋のドアが開いた。

「なに? 死ぬ? いったいどうしたんだ!?」

 入ってきたのは、セルジュだった。もとより謹慎以降、レティシアの自室に入れるのはネリーとセルジュくらいだ。

 別に驚くことはないのだが、さすがに今の言葉は聞かれてはマズいと思ったのか、レティシアは慌てて取り繕った。

「お兄様! だ、大丈夫よ! 私は死なない! 元気よ!」
「本当か? 冗談だとしても、『死ぬ』などという言葉を口にするとは、いったい何事が……?」
「何でもない、何でもないわ! ちょっと……そう、新しく読んだ物語について話していただけよ。ねぇ、ネリー?」
「…………はい」

 ネリーは、仕えた年月を感じさせる、素早い対応を見せた。
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